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セミの声をiZotope RX 9で消してみた

◉はじめに

この時期になると盛大に鳴き出すセミ。蝉時雨自体は季節を感じる良い音風景ですが、映像制作などの音声収録となると、時にはとても厄介な代物。インタビュー時に声が聞きにくいなどの問題になることもしばしば。以前なら半ば諦めていたこの問題ですが、最近はiZotope RX 9などのオーディオ修復ツールの性能向上が目覚ましく、案外なんとかなっちゃうケースも出てきました。実は、以前にもRXの古いバージョンでセミの声の除去を試みたことがあったんですが、正直、僕の感覚からするとクオリティ的に不満がありました。なので、それ以来ずっと諦めてたんですが、最新のRX 9で久々にちょっとテストしてみようと思ってトライしてみたところ、以前よりもだいぶ良い結果になったので、記事にまとめておきます。まぁもうみなさん結構やってると思うのでいまさらではあるんですが(苦笑)。

◉オリジナル

まずはオリジナルを聴いてもらいましょう。
※SoundCloudのストリーミングは結構圧縮ノイズが感じられますが、実際に処理した音声にはこういったピョロピョロしたノイズは聞こえません。

スペクトログラムはこんな感じです。

オリジナル音声のスペクトログラム

今回、素材にしたのは、先日山に入ってフィールドレコーディングしてきたもの。主役となるのはウグイスの鳴き声なんですが、LRそれぞれの中央付近(2kHz〜3kHz)に時折現れているのがそれです。そして、5kHz以上に現れている帯状のものがセミの鳴き声。音源を聴いてもらえれば分かる通り、しっかりうるさいです(笑)。これがどこまで低減できるのかが、今回のテストの趣旨ですね。

◉De-Cicada

それでは、早速RX 9で処理してみましょう。いろいろなやり方があると思いますが、今回は周波数選択ツールで当該箇所を選択し、「Spectral De-noise」でLearnさせ、強めにリダクションさせてみました。

セミの声の帯域だけを学習させ、強めにリダクションしてみた

その結果がコチラ。

なお、周波数的には5~15kHzと、15〜35kHzの2回に分けて実行しましたが、後者の方は人間の耳にはほぼ聞こえない帯域になってくるので、実際にはそこまでしなくてもいいと思いました。

セミの声の帯域をリダクションした結果

以上のように、耳障りだったセミの声がかなりキレイに低減できましたね!ただ、やはり高域が削れたことによってちょっと籠った抜けの悪い感じの音になってしまいました。これをなんとかしてみたいと思います。

◉De-Cicada + EQ

と言うわけで、高域をざっくりとEQしてみました。設定は以下の通り。

高域をEQしてみた

RX 9のEQを使い、セミの声があった10kHz周辺を広めのQ幅で9dB弱ほどブーストしてみました。その結果がコチラ。

ウグイスの声の明瞭度が上がって聞きやすくなりましたね!オリジナルと比べると、だいぶ高域が丸まった感はありますが、以前トライした時のような音の不自然さがかなり軽減されてて驚きました。実際に仕事でやる場合、EQはDAW上で別のEQを使ってもっと精密にやりますが、今回の結果も映像制作における音声処理としては十分に使える素材になったのではないかと思います。

◉まとめ

いかがでしたでしょうか?かなりざっくりと処理してみたんですが、それでも良好な結果が得られたんじゃないかと思います。今回は、素材の関係でウグイスの声をメインに考えましたが、人の声の帯域はもっと低いところが主成分になるので、より分離させるのが簡単かもしれませんね。他にもセミの声の処理の仕方はあると思うので、もっといい方法があったら教えてください(笑)。

僕がお受けするMA案件はドキュメンタリー系のものが多いんですが、環境ノイズが耳障りだからと言って、ガッツリ除去してしまうのは違うなと思っていて。極端なディノイズは音質低下に繋がるし、何よりドキュメンタリーに必要な生々しさがなくなってしまうので。聴かせたい音声と背景ノイズのバランス……その辺を考えながらいつも処理をするんですが、RX 9はそんな僕の想いに応えてくれる優秀なツールだなと改めて思いました。

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