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フードファイティンガー爆食!! そのじゅういち

 青山竜舌焼中学校(あおやまりゅうたんしょうちゅうがっこう)三年部長の反梟武 蚩尤(そさらぶ しゆう)との準決勝を終始優勢で終えた踊杭鮮海鮮中学校(おどりぐいせんかいせんちゅうがっこう)一年の爆食院 饕餮(ばくしょくいん とうてつ)は決勝が開催されるまでの三十分間のほとんどを桜餅 大納言 猿田彦(さくらもち だいなごん さるたひこ)の捜索に費やした。がしかし、その姿を見つけることはできなかった。

「くそ!!あれほど俺に勝てって言ってくれたのに!!!どうして!!!!」

 東雲ヶ岬北鳥市民館のベンチに座り、その固い壁を殴りつける。

「なんでだよ!どうしてだよ!!先輩!!!」

 初めは決勝まで勝ち上がったルーキーを見に見物客も居たが、その乱心ぶりに今では誰も居ない。静かな廊下で一人、爆食院 饕餮は吠えた。

「俺はどうすればいいのかわかんないんだよ!!!!!先輩!!!!!」

「随分と荒れてるねぇ」

 市民館の廊下でスキール音を鳴らしながら爆食院 饕餮の目の前に現れたのは風秤寺 窮奇(かざはかりでら きゅうき)だった。

「・・・風秤寺君・・・?」

「やあ、爆食院君」

 風秤寺 窮奇はその右手に天秤を持っていた。そしてその天秤は右の皿が下がっていた。

「・・・なんですか?それ」

「天秤だよ。まあ、現代じゃ見ることは無いから、初めましてだよね」

「天秤?」

「この右と左の皿に物を乗せて価値を測る計測器さ」

 説明された天秤を見ると風秤寺 窮奇が持つそのそれは右に傾いていた。

「この右の受皿に載っているのは、米国行きのチケットだよ。爆食院君」

「・・・米国?」

 風秤寺 窮奇は垂直に持っていた天秤を徐々に右へと自ら傾けていく。

「彼はさ。今日本から飛ぼうとしてるんだよ」

「なっ!?」

「速く行った方がいいじゃないか?爆食院 饕餮君。今なら間に合うよ。決勝には出れないけど、まあ来年頑張ればいい。今年はこの風秤寺 窮奇に勝ちを譲ってさ」

 風秤寺 窮奇はその天秤を回し、チケットの乗った受皿を爆食院 饕餮の目の前に差し出す。

「こ、これで・・・先輩に会える・・・?」

「貰っていけよ。高かったぜ?これは。このご時世さ、まともに外国行くなら何十年節約生活だよ」

 爆食院 饕餮がそのチケットに手を伸ばそうとしたそのとき、チケットは別の手に取り上げられる。

「なっ!?」

「悪いな。爆食院。お前が決勝に出ないってのはダメだ」

「誰だい?君」

「俺は踊杭鮮海鮮中学校三年、娑婆河原 笠六積(しゃばがわら かさろくせき)だ。年下に奢ってもらうのは癪だが、あとで返してやるよ」

「しゃばさん!?!?」

「いいか爆食院!俺らは、部長は、桜餅は、お前に”勝て”って言ったんだよ!!」

「なっ・・・」

 爆食院 饕餮はこの半年を思い返した。そうだ。桜餅 大納言 猿田彦は、俺に勝てって。才能があるって。なのに俺は・・・

「悪いな”若き天才”君よ。”悪魔”に取引はダメだろ、な?」

 そう言って震えた膝を引きずって歩き出した娑婆河原 笠六積を二人は見送った。


 遂に決勝で”悪魔”爆食院 饕餮と”若き天才”風秤寺 窮奇が激突する。火力鍋が飛び、油が跳ねる。県予選最後の品目”索漠胡乱炒飯”を前に、フードファイティングの歴史がうねりだす・・・

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