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フードファイティンガー爆食!! その7

 爆食院 饕餮(ばくしょくいん とうてつ)は県予選二回戦終了後倒れ伏し、病院に運ばれ、その結果フードファイティングドクと名乗る男から第三回戦まで修行を受けることとなっていた。そして一日目のリハビリを兼ねた軽めのフードファイティングを経て、本格的な修行が始まろうであろう二日目を爆食院 饕餮はドクと釣りをしていた。爆食院 饕餮はにとって釣りは初めての体験で、それでも大きめのミナミクヤマタラシ(クヤマタラシカ科の魚で尾びれの棘と腹びれにある臭腺からでる独特な臭いが特徴の魚)を見事釣り上げ歓声を上げた。と、ともに違和感も覚えていた。結局、夏の海でお昼休憩も合わせて8時間釣りをして、ドクは釣果0のまま帰り支度を始めている。ドクに言われるまま車に乗り込み、爆食院 饕餮の修行二日目は幕を閉じた。

 三日目、明朝から夏休みの宿題の進捗を聞かれた爆食院 饕餮は言葉を濁した。それは宿題に手をつけていないということではなく、修行らしいことを全くしてこないこのドクに対する不信感で言葉を濁したのだ。ただ、ドクはそれを子供が悪さを隠すそれだと思い、三日目を宿題合宿と称し、”たらぼら”と地元で呼ばれる山にある小屋に連れていかれ、海鮮バーベキューと森林浴でのマイナスイオンを楽しみつつ宿題をこなした。

 四日目は朝に筋トレやロードワークなどのメニューが送られたのち、それ以降なにも連絡がなかった。爆食院 饕餮は14時を避けてそれを済ませ、夏休みの怠惰を楽しんだ。冷房を効かせた部屋で寝そべって食べたバニラアイスの味はたくさんのものを食べたこの半年の中学生活で味という点では一番であった。ここで爆食院 饕餮はフードファイティングで食してきたものの味をほとんど覚えていないことに気が付いた。初めての大会で食した”激辛沸騰殺戮チゲ鍋”も、主将山俵 竜(やまだわら りゅう)との練習ファイティングで食した”高速融解かき氷”も、二回戦で食した”超弾力イカ玉お好み焼き”も、何一つ、自分は味わっていなかった。爆食院 饕餮は今夜、生まれて初めて寝付けないで寝返りをうつだけの夜を過ごした。

 五日目、爆食院 饕餮は初めてドクに自分から連絡を取った。その内容は単純。美味しいおでんの作り方を聞いた。理由は夏の暑い中であえておでんを食べたくなったからだ。すると、ドクは家までやってきて爆食院 饕餮を車に乗せ隠れ家的な定食屋へと向かった。

 ありえないほど、不味かった。夏の暑さの補正抜きに。とてもとても。

 ただ、爆食院 饕餮はこのおでんから味というものを強く感じた。

「爆食院君。フードファイティンガ―はね、食べるために普通のヒトの形を捨てるような、頭のおかしい人なんだよ。君がどう思っていようが周りからはそう思われている。だから、というのはちょっと違うけれど、でも大切なことがある。人らしい感情や体験、なにより”味”という感覚。これらは味わうことを忘れないで欲しい。”食べる”という行為は、命を頂くというということなんだよ。ま、機械に囲われるとわからなくなるよね」

 そう言って、ドクは店の床を埃を立てずに掃除する薄型万能自動清掃グリングリン~父と語るあの日~を指さした。

 六日目。山俵 竜との決戦の日を明日に控え、ドクは初めて爆食院 饕餮に爆食院 饕餮のフードファイティングを教える。それは彼の身体的特徴を最大限に生かす、生命の進化を逆向するものであった。ドクの教えを胸に第三回戦会場へ向かう爆食院 饕餮であったが、途中でとある人物に声をかけられ・・・

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