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エピローグ いつのまにか眠り込んで、目覚めたときには日が昇るところだった。樹々の葉陰から…
水 六 わたくしはずっと、自分の生まれを憎んでおりました。 わたくしは、一般に知られては…
伊澤ちはる 五 春は特別な季節です。害も悪も、水の洗いを以て清められり。 あ、水花が潤ん…
司水菫 五(前編) 翌日から、私は智世子お姉さんの学校の図書室に通うようになった。 「森沢…
水 五 この林に来てから、透明にも影ができるのだということを知った。 影ができるというこ…
司水菫 四 花弁によく似た蛾の翅の毳を覆いし鱗粉が──。 蛾は、結局みつからなかった。 …
水 四 いきがつづくまで、吐く、吐く、吐く。 吐いたそばから重みで沈んでゆくそれは怨念のようであり、毒素のようでもある灰褐色で 細く長く最奥に横たわっているのです。 * 可愛らしいものが落ちていた。近づくと、小鳥だった。 可愛らしいままで、でも頭の下に血溜まりをつくってぴくりとも動かないから、ああ死んでいるのだなと分かった。恐らくすぐ上の窓ガラスの存在を認識できずに激突したのだろう。こんなにも好ましい外見のまま綺麗に死ぬものかと思った。 その小鳥がひどく羨ましくなってし
伊澤ちはる 三 問題は摩擦だ。あれが滑らかな移行に歪みを作る。 月が出ている、 ──と思…
水 三 世界は繋がる、昼も夜も。まるく放射状に拡がってゆくロゼットのように。 朝、袖を通…
伊澤ちはる 二 私が上空1,0000メートルで落とした涙はまだ宙に浮いたままでいる。 雲塊の巨…
司水菫 二 近所に不気味な児どもがいた。 いた──というより最近見掛けるようになった児で…
水 二 私が遠い将来化石になったとき、一体誰が私を正しく復元してくれるのですか。耳の薄さ…
伊澤ちはる 一 死んだ女生徒は物語映えするような美少女ではなかった。ただ、髪だけは黒く染…
司水菫 一 三姉妹にはそれぞれ花の名が宛てられていた。 上の娘から、百合、椿、菫。彼女らの両親は年老いていた。姓は司水といった。 月のない晩のこと。 三人揃って街へ行くと出掛けた娘達が、一向に帰らぬのである。両親は狼狽し、方々を探し回ったが見つからなかった。 夜更けに百合と菫だけが、ぬらぬらとどす黒く濡れて帰ってきた。 「引き摺り込まれた」とだけ一方が告げ、あとは何も語ろうとせず青褪めているのだった。 椿は、それから二度と戻らない。 * 形に残らない部位は瓶詰めに