黒部峡谷鉄道(トロッコ電車)考

 黒部峡谷鉄道の「トロッコ電車」は非常に有名な存在だが、少なくとも40年程前は鉄道好きの間での人気はイマイチで、模型が出ても売れなかった。

 理由は大きく分けて3つある。

 1つ目、あまりに観光鉄道としての面が強調され過ぎていて、話が伝えられる場合も「遊園地の延長」というビジュアルイメージが付いて回った。客車も昔は開放式ばかりだったし。これは「乗り鉄」するにも「撮り鉄」するにもちょっと心理的ハードルが高くなる。
 自分も遊覧鉄道についてのウェブサイトをやっていたけど、鉄道好きの間での「生活感」「現場感」を求める傾向は強いと思った。保存車両より「いまなお現役」の方が格段に人気があるという事もある。

 
 2つ目、敷設された事情が事情だけに(自分たちの世代には)「郷愁の対象」にならなかった。
 鉄道の「ブーム」は蒸気機関車に始まり、軽便鉄道、路面電車、戦前の機関車や電車、古い車両を使う地方私鉄、機関車牽引の客車列車など「どこか懐かしい」ものにスポットが当てられた。
 黒部峡谷鉄道は少なくとも「去り行く存在」ではなかった。

 3つ目、似ている存在の無い、唯一無二の存在なので説明もしづらいし、理解もされにくかった。
 それはもちろん黒部の電源開発そのものが空前絶後だったという事なんだけど、黒部峡谷鉄道的な鉄道がもう1つ位あれば「そういうジャンル」として楽しめた所だったんじゃないかと思う。
 最もジャンル的に近いのは立山砂防軌道だと思う。こちらはナローゲージ(線路幅の狭い鉄道)好きの間で産業ナローとして人気が高い。木曽森林鉄道にも匹敵する。
 もう少し大きくすると大井川鉄道井川線だが、こちらも観光鉄道として見られがちで、鉄道好きの間の人気は黒部峡谷鉄道同様に微妙である。

 これが、ここ20年位でイメージが変わってきたと思う。
 それは、ダム関連、電力関連の列車が多く運行されている事が知られるようになったのが大きい。この動きには「知られざる鉄道」のような書籍が出てきた事ももちろんだが、良くも悪くも実際に行ってネットに画像を上げる人が多く出てきた事が無関係ではない。
 以前の雑誌の記事では、なかなか「働いている鉄道」という事は伝わって来なかったのだ。

 雑誌記事で「現場感」が伝わらないのは仕方ない事でもある。「知られざる鉄道」は無茶苦茶魅力的なのだけど、「知られざる鉄道」とは「知られてはいけない部分がある鉄道」なんだもの。ブラタモリでやるような場所なんだもの。

 かく言う私もやはり現場関連のディーゼル機関車の存在には脳天に突き刺さるものがあった。最新だがこれはカッコいい。

 最近は現場のご厚意により車庫の公開も日時を限定して行われていると聞く。いつか行ってみたいものだ。

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