風情を箱がコロス
数年前、風鈴を買った。古道具屋で安いの一つ。
風鈴が好きでもなんでもなく『風情を楽しむ大人な自分って素敵』ってやつ。いつものやつね。僕は形から入るタイプだ。
ベランダの物干し台にぶら下げて、風がふくのを待つ。
しばらくして。
ちりん! ちりん! ちりん! ちりん!
大はしゃぎだ。僕ではなく風鈴が。
僕はなぜか「ごめんって!」と謝りながら風鈴を止める。即、撤去だ。
脳内イメージでは、縁側で(すでにおかしい)風鈴が心地よげに鳴っている。あと猫と小柄な婆さんとか添えて。
だが実際は、大きな箱を小さく区切った狭苦しいスペースで生きているのだ。隣のベランダは、薄い板で仕切られてるだけ。蹴ったら壊れるあの板ね。
そういうわけで、僕の風情ある大人計画は一瞬で終わった。あの風鈴もすでに行方不明。もったいない気もするが、ここに書けたのだからよしとするか。
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