Maison book girl「yume」に寄せて

fMRI《functional magnetic resonance imaging》MRIの原理を応用して、脳が機能しているときの活動部位の血流の変化などを画像化する方法。また、その装置。機能的核磁気共鳴断層画像。―コトバンクより引用

Maison book girlの新たなアルバム「yume」は文字通り「夢」をテーマにした作品だ。正直このアルバムをまだ咀嚼しきれていない。むしろ、音楽的知識や頭の良さが足りないぼくには「難しいこと考えずにこの難解さと心地よさにひたりなよ」と語りかけてくるようにも感じる。

このアルバムは「夢」という曲を中心に様々な景色を見せてくれる。

fMRI_TESTでは機械の中にいる現実を彷彿とさせつつ夢の世界へと誘う。悲しく儚い景色を見たかと思えば覚醒したかのようなピッチの早い勁烈、鍵盤(打)楽器が奏でる軽やかな深淵、今にも走り出したくなる疾走感、夢そのもの、壊されつつある平和な自然、重厚な浸食などといったうねりを表現していく。このアルバム全体を通して、移り変わる夢の景色、そして夢を見ている状態そのものを表しているように感じる。夢のある部分に反応する脳波や血流の変化、抑圧された意識・願望による異常なまでの激情、夜の中にある恍惚とした静けさ。そもそも夢はレム睡眠時に見るものであり、脳は活性化している一方、身体は力が抜け休息しているという、覚醒と深淵が同居している状態である。「yume」も同様に、覚醒と深淵、時には現実までもが同居し、ぼくたちの生活に最も寄り添うものでありながら非現実的な世界である「夢」を見せてくれているのである。また、最初と最後のfMRI_TESTにより、このアルバム自体がループを誘惑していて、現実を感じさせる機器を通じて終わらない超現実な夢を感じさせてくれる。申し分のない構成である。

このアルバムの中には素晴らしい曲がいくつもある、なんなら全部好き…というオタク丸出しな感じではあるが、ここは真面目に文章を書く場なので、「夢」という曲について感じたことを記しておきたい。

fMRIの音から、脳を揺さぶるノイズや奇妙なクラップ音(ブクガのインタビューを読むと脳波に合わせたクラップ音らしい)を織り交ぜつつ、穏やかで優しい世界が始まる。四人の歌声がぼくを奥へ奥へと導くのだが、途端に、ぼくは自分の立ち位置、足元を見失ってしまう。自分がどこにいるのか、自分が何者なのかわからなくなってしまう。ふわふわとした不安定な場所に放り込まれたぼくは、歌声をたよりにさまよい続けるしかない。もしかすると永遠なのではないかという息苦しさと心地よさの矛盾を感じ続ける。

しかし、ほんの一瞬の静寂の後に到来する、たたみかけるような感情の波で、ぼくは居場所を取り戻す。「夢」という曲の中に、居場所を取り戻すのである。どこか遠い空間を泳いでいたかのような状態にあったぼくが、「夢」という世界に内包され、そこに満ち満ちている優しさや悲しさ、込められている目に見えないものに触れるとき、たまらなく感情が揺さぶられ、涙が溢れ、とても正常ではいられなくなってしまう。

サビの部分では、四人が美しく、あまりに美しく優しさを与えてくれ、ぼくはその美しさと優しさを全身で受け取り、悶え、ひれ伏すしかない。

一曲で静から動を表現し、その世界の中に聞く者を包み込んできた「夢」の終わりは、矢川葵のソロパートによる。芯のある強さと透き通る透明さ儚さが共存している彼女の声で、余韻を残しつつキュッと締める。この余韻が、夢と現実の狭間にある微睡みに色を与える。

「夢」という曲がとても好きだ。

Maison book girlは、このアルバムでまた未知なる領域を魅せてくれた。どこまでも孤高で、ぼくの内面をぐちゃぐちゃにしてくれる唯一無二の存在が、このアルバムを引っ提げてどのようなライブをするのか、本当に楽しみである。
早くhiru、yoru、そしてyumeを目撃したい。そこにはどのような景色が広がっているのだろう。


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