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藍染とウールの相性の話

 藍染の冬の品物を考えた時、ウールを染色したことがありました。
染まりも鮮やかで、色落ち等の問題は見られなかったので、複数のウール素材を染めてみることにしました。
すると生地によってはきれいに染まらない、質感が変わるなど品質が不安定で、ウールと藍染の相性について、検証をしてみることにしました。
この検証をしたのは2017.2ごろですが、整理も兼ねて記事化します。

・ウールの性質

 藍染に関係するウールの性質を挙げてみます。

・ウールは動物性繊維、タンパク質です。
・ウールの表皮(スケール)は、水をはじき、水に浸けることで開く性質があります。
・アルカリ性はスケールを開きやすくし(?)、タンパク質を溶かす性質があるため、素材が傷む原因になります。
・スケールが開いた中で、急な温度変化がある、摩擦が起こるなど、生地の環境が変わるとスケール同士がくっつき絡まり、生地が縮む、硬化・縮絨(フエルト化)が起こりやすくなります。
・ウールの内部(皮質部)は水分を吸収する性質があります。
・これらは、保湿、保温、弾性といったウールが好まれる特徴の理由でもあります。

・藍染の特徴とウールの性質

 次に藍染の特徴と、ウールの性質の関係性をみてみます。

藍染の特徴(ざっくりと)
・タンパク質が染まります。
・染め液はアルカリ性です。
・色の濃さを出すために、複数回染め液に出し入れさせます。
・余分な藍が生地につきやすく、しっかりとした洗いが必要です。

藍染はウールに負荷をかける工程、環境が多そうです。
言い換えれば、素材の硬化、ダメージなどを注意しなければウールは藍染が出来るとも言えます。
ただし個人的には、藍染をするために生地を劣化させるなら染めない方が良いと思うので、ウールにどの程度負荷をかけずに藍染ができるのかという視点で検証をしました。

・染色条件

 上記から、可能な限りウールに負荷をかけない染色方法、条件を考え以下の方法で行いました。
pHを抑える。染色回数を減らす。洗う回数を減らす。ウールをなるべく動かさない。をポイントにしています。
また、ウールの負荷の程度を確認するために、作家sojiさんに素材の提供とフィードバックをしていただきました。

(sojiのご紹介:原毛から洗い…紡ぎ、織って作品を作る作家さんです。染色はせず、本来の毛色を組み合わせて色づくりをされています)リンク先↓


・(洗い、解した)原毛6種類を染色します。
・pH10.5(苛性ソーダ。通常は石灰ですが調整が効かないので。一般的な染め液はpH11台〈石灰、貝灰、灰汁など〉だと思います。)
・藍の原料:合成藍(染め回数1回で濃くするため)
・染め回数1回、1.5分。(アルカリ性下、長時間の浸染を避けます)
・藍甕の温度を50-55℃にします。(染め回数1回で濃くするため)
・染後に酸性のお湯(50℃)+酸化剤で浸けて発色させます。(pHをアルカリから戻す+藍甕の水温と同じ+原毛を極力動かさずに酸化させるための酸化剤)
・発色したら50℃の水につけて自然に水温が下がるまで浸します。(前工程の水と同じ温度にしておきます。急激に温度を下げないため)
・水温でやさしく手洗い。自然乾燥します。
・数日を置いて、ぬるま湯でやさしく手洗い。水温に戻ったら引き上げて自然乾燥します。
・染色した原毛をカーディングします。カーディングとはその次の紡ぎの工程をしやすいように繊維の方向を揃える作業です。ここで、原毛のカーディングと比べて引っ掛かり(硬化、縮絨)の程度を見ます。(sojiにて)

・検証結果

これが染色した6種類の原毛です。

染色はどれも鮮やかに染まりました。
私が見た限りでは、原毛へのダメージは見られませんでした。
カーディングの結果は、
「引っ掛かる種類もあったが原毛とあまり変わらないのもあった。作業中、色は若干手についた。」
「今回使用した羊毛に限っては、引っ掛かりが多かったのは、毛が細番手の種類。原毛とあまり変わらなかったのは、毛が太番手の種類。」
ということでした。

こちらが太番手の種類のうちの1つです。

・まとめ


「ウールへの負担にかなりの手間と注意を払って行った結果で、負担のかかっている(引っ掛かりが多い=硬化、縮絨)ウールがあった」ということで、
私としてはひとまず、「ウールと藍染の相性は良くはない」という結論で止めています。
今回の検証に限っては太番手の種類が引っ掛かりが少ない結果でしたが、負荷の少ないウールの種類をさらに限定したり、量産される工業的な加工をしたウールとの相性など、まだまだ気になるところはありますが、きっかけがあった時に進める予定です。

写真 2020-10-12 14 12 40

最後にsojiさんのご厚意で、検証で藍染した原毛を別の原毛とミックスにして紡いでいただいた糸を載せます。
やはりきれいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ウール製品はいまのところ断念していますが、ウールと藍染に関して気になることなどあればお気軽に問い合わせください。
特にウールの素材に関しては見識がとても浅いので、誤解があればご指摘があるとありがたいです。
藍染の製品、藍染印半纏は昔からずっと経験を積み重ねて染めている物に関しても、ぜひどうぞ。


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