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北へ帰る冬鳥


北へ帰る冬鳥 最後にシロハラを観たのは一週間位前で、いつものように、地面をつついていた。でもこっち見てる。目が合う。私は庭に向けた机で昼間はよそ見せず試験勉強。遊びにくる小鳥達や、ひらひら流れてくる蝶や、青葉の枝が風に揺れているのを眺め、時々問題集に目を向ける。

前々からシロハラはいつロシア帰るんだろう。そろそろじゃないかな。と気になっていた。シロハラは今年初めて我が家の庭へやってきた冬鳥。うちを気に入ってくれたようで、毎日庭を陣取り、他の小鳥を追い払っていた。それでよくない印象をもってしまった。

冬鳥の中ではとりわけツグミのファンで、美しいシルエットと、他の小鳥を攻撃しない静かな佇まいが好きで毎年秋になると飛来を待つのだが、昨秋は姿を見せず、代わりに初めてのシロハラがやってきた。

大きさや形が近くて、色が地味だから最初ツグミの雌かなと調べたらツグミの仲間だった。食性も似ていて地面をつついて虫を探す。でも違うのはリンゴの皮や芯、ミカンを食べに来た小鳥達、メジロとかシジュウカラとかを追い払う。甘いものが好きなヒヨドリの真似をして、ホバリング上手なヒヨドリみたいにぶら下げたミカンに飛びつくも体重くてムリ。シロハラというように背中は薄い灰茶色でお腹だけ白っぽいから膨張服着てお腹出ているみたいにややぽっちゃり。加えて無駄な動きが多くみえる不思議ちゃんだったので、とにかく私は面白い動きから目が離せなかった。

秋が深まったある日、待望のツグミがやってきた。ああやっぱり美しい。小鳥達も怖がらない。と思っていたら、シロハラがツグミを追いかけ回すようになった。でもツグミは逃げない。攻撃もしない。頑として動かない。何度追われてもまた同じ枝に戻ってくる。しかもシロハラと同じ枝のあっちとこっちに。ツグミは挑発的なのか。そんなことを繰り返しながらなぜかいつもシロハラとツグミは一緒にいるようになった。オスとメスなら、種を超えてもけっこう気が合うんじゃないか。丁々発止、夫婦漫才を思い浮かべた。

もう一羽の登場鳥物。はぐれものヒヨドリ。何年も前から一羽で現れる常連さんで、夢中になって無口で甘い果物を食べているから、最初はすっごい欲張りで仲間にエサの在り処を知らせず独り占めしたいのかなと思っていた。

ヒヨドリはエサを私がお持ちするとギーギーと甲高い声で仲間を呼びグループでやってくる。ところが、そのはぐれヒヨドリは、黙って食べて行く。エサがないときには、窓の前の枝から家の中を覗いている。もちろん目が合う。ずっとこちらを見ている。居座っている。ああ催促ですねとわかり、果物をお持ちする。喜んで食べる。はぐれヒヨドリにおねだりされるようになり数年経った。

ヒヨドリは人に懐いて、飼育すると(野生の鳥を飼うのは違法)名前も覚えるとどこかに書いてあった。なるほど。餌付けされた経験のあるヒヨドリかもしれない。

鳥は体の大きさが物を言う。居るだけで威圧感を与えるキジバトは気の強いヒヨドリさえも遠慮する。小鳥達はキジバトと一緒にいると安心しているようだ。ジャイアンのヒヨドリは小鳥達が平和にエサをついばんでいるところを数羽で現れ小鳥達を蹴散らしエサを横取りする。

それなのにはぐれヒヨドリは動きもおっとりしている。エサはおねだりするし、なんか可愛い。

ツグミは早々と帰郷したようなのに、先のシロハラははぐれヒヨドリと一緒に現れるようになった。私はとても心配で冬はぽっちゃりしていたシロハラがツグミみたくスマートになり、日本が気に入ったならそれはそれでいいのだけれど、暑い夏を過ごせるのか、種を超えて育んだ友情が旅立ちを遅らせているのかと。敵、この辺りはハヤブサの一種が超高速で獲物(小鳥_動きの遅い雀)を捕まえるから、おっとりしたはぐれヒヨドリと二羽で群れているのは安心なんだろう。

それで一週間位前におねだりするはぐれヒヨドリのように、シロハラが目の前でじっとこちらを見ていた。今までこんなに可愛い姿を見せたことがないのに。すごく可愛い。正面からこちらを見ている。室内で窓の前にいる私の真ん前まで来て、明らかに私を見ている。長い時間、地面をつついてはこちらをじっと見るを繰り返していた。それから姿を見せなくなった。

挨拶に来てくれたのか。それともヒヨドリから此処の作法を伝授されおねだりを覚えたのか。

秋に待つ常連さんがまた増えた。

気をつけてね。

涼しくなったらまた会いましょう。ロシアまであんな小さな体で飛んで行くなんて。気をつけて。