さよならメイトリクス②

フランスから帰国する飛行機の機内食でカレーが選べることになった時、我々一行は歓喜した。

1週間バター付きパンが続いた後の日本食(?)である。当然私もカレーをチョイスしたのだが、もりもり食う家人を横目にわたしはさっぱり匙が進まない。

はらがいたいのだ。

え、ちょ待てよ。狭いエコノミー席の隙間で思わずキムタクになるくらい体調が悪化しつつある。出血は無いが明らかにこれは生理痛…!

12時間のフライトの中おおむね3時間はトイレに篭っていたと思う。エールフランスのアテンダントさんお客さん個室を占拠してすみませんでした。

その後なんとか無事に家に辿り着き、お土産を配りつつ仕事を再開するも閉塞感を伴う腹部の鈍痛は日毎に増していった。来るはずの生理もまだ来ていない。何よりひどい便秘になっている。ポコポコ独り言を言う腹を抱えて勤務を続け、人に浣腸を施しまろび出たブツの山を眺めて(いっぱい出て羨ましいなあ…)とぼんやり思う日々。

こんなん絶対おかしいやん!色々と!

便通の異常を優先的に見て消化器内科に行くとドクターから「うーん、腸内で何か起きてるかも知れないからとりあえず内視鏡入れてみようか?それから婦人科の先生へ検査結果を情報提供してあげるから」と丁寧に説明され、帰り際にどえらい量の下剤と検査食を手渡され帰途に着いた。

検査当日。

起き抜けからおおよそ通常では考えられない多量の水と共に、決められた時間毎に下剤を飲んでいく。

『開始してから1、2時間までにはかなりのお通じが来ますから』

……って来ない!!はらがもうぱんぱんだ!!

薬を全て飲み切ってもまだ来ない。この時点でHPはほぼゼロに等しくなっていたがとりあえず検査には向かわなくてはならない。

件の病院へ向かうも、その頃には膨満感と尋常ではない痛みに身体を起こして歩くこともできなくなっていた。

車椅子移動して検査室の待機部屋に寝かされたがもはや腹部の激痛で言葉が話せない。担当の看護師さんも「あ、やば。血圧下がり始めてる」とうっかり口に出しちゃうくらい状態は悪化しており、こんなに痛いのに気絶も出来ない自分の頑丈さをひたすら呪いながら地獄の使徒のような呻きを発していた。

「これはダメだ。救急要請して」

多忙な診察の合間に私の状況を見に来たドクターの重い声音に(あっこれ死ぬかも知んないやつだ)とぼんやり思った。

自分でわかるほど指先が硬く冷たくなっていたのだ。

思考が沈み始めた頃、救急隊が到着して意識を失った。当時この様子を一部始終見ていた医院のナースは「お産が始まったのかと思った」と後日述懐してくれた。

③へつづく


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