『たばこ』
父は
僕が小さい頃たばこを吸っていた。
僕は父の吸うたばこが大嫌いだった。
父がたばこをやめるように
弟と協力して
灰皿やたばこを隠したりなんかした。
僕が小学生になる頃には
父はたばこを一切吸わなくなった。
父は僕ら子供達のために
たばこをやめてくれた。
だからか、よく僕らに
「お前らのためにやめたんだから
もし大人になって
たばこを吸ったら後ろから
飛び膝蹴りするからな」と言っていた。
そして、大人になって
父は『青空』という記事で書いたような
死に方をした。
僕は、それから
たばこを吸うようになった。
毎日毎日何十本もたばこを吸った。
体に毒だとわかっていたけど
たばこをたくさん吸った。
吸い過ぎて吐きそうになってもたばこを吸った。
たばこを吸う度に
約束通り後ろから父が叱ってくれるのを待っていた。
突然、父が後ろから飛び膝蹴りをしてきてもいいように僕は背中を蹴られる準備をしていた。
そして、親子の約束を破ったことを思いっきり叱ってくれるのを待っていた。
そして、「今まで
父親がいないなかでよく頑張ったな」
と言ってもらえることを期待して
たくさんの悔しい思いを我慢してきた。
でも、いつまで待っても
父は現れなかった。
どれだけたばこを吸っても
僕を心の底から叱ってくれる父は現れなかった。
僕を息子として褒めてくれる父は何度も何度も願っても現れなかった。
わかっていた。
父が現れるわけがないと。
それでも、僅かな望みにかけてみたかった。
今はもう僕は、くだらない望みにかけることをやめてたばこを吸うのをとっくにやめた。
でも、時々父に会いたくなる。
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