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心房細動の治療法

不整脈には3つのタイプがあります。脈がとぶタイプ、速いタイプ、遅いタイプです。脈が速いタイプの不整脈のひとつに心房細動があります。複数の電気信号がまったく不規則に発生し心臓の上半分の心房が細かく震えるように動くタイプで、脈拍数は1分間に60~100回です。自覚症状としては脈の乱れや動機やめまいがありますが無症状のことも多くあります。このタイプの患者さんは日本に約200万人とされていますが自覚症状が無い隠れた患者さんも相当数いると推定されています。加齢とともに心房細動の割合は増加します。町医者として長く同じ患者さんを診ていると、ある日突然、「あれっ、知らない間に心房細動になっているぞ」と気がつくことがよくあります。

心房細動そのものは命に直結しませんが、心房細動がある人は無い人に比べて脳梗塞が5倍、心不全が4倍起こり易いとされています。心房細動があると心房内の血液がよどんで血栓ができて大きくなりがちです。この血栓が心臓から脳に流れ出てそこで詰まると脳梗塞(脳塞栓)を起こします。動脈硬化による脳梗塞と心房細動の血栓による脳梗塞(心原性脳塞栓)は、似ているようで病像がかなり異なります。心原性脳塞栓は一般の脳梗塞に比べて重症であることが大きな特徴です。半数は亡くなり、2割は要介護状態になり、社会復帰できる患者さんは3割程度しかいません。ですから悪性脳梗塞という言われ方もします。また長期間心房細動を放置していると、脈拍数が増加した状態が続くため心臓のポンプ機能が低下した慢性心不全に至り易くもなります。ですから心房細動と診断されたらまずは専門医を受診して適切な治療やアドバイスを受けることが大切です。

心房細動の治療方針は大きく2つあります。ひとつは薬やカテーテル治療で心房細動をできる限り起こらないようにすること。心房細動が起こりにくくする抗不整脈薬を使い症状をやわらげます。あるいはカテーテル・アブレーションを行います。脚の付け根の静脈からカテーテルを挿入して左心房内の異常な電気信号の発生源に先端を当てて高周波電流で焼くという根本的治療法です。2015年からは高周波電流ではなく冷凍凝固を用いる方法も使えるようになり治療時間の短縮が可能になりました。ただし発作性心房細動に限られています。従来カテーテル・アブレーションは発作性心房細動に有効だが、慢性心房細動には有効では無い場合があるとされてきました。しかし最近は慢性心房細動に移行して1年以内であれば治療を試みることが増えてきました。高周波電流によって発作性心房細動を治癒せしめる確率は1回の治療で5~6割、2回の治療で8~9割です。かかりつけ医として診ている患者さんでも2回目でやっと成功した、という人が何人かおられます。

さてもうひとつの心房細動の治療は心房細動を受け入れて心拍数を減らす薬や脳梗塞を予防する薬で管理することです。心房細動から脳梗塞を起こす危険性が高い人は75歳以上で心不全や高血圧や糖尿病のある人、そして脳梗塞の既往のある人です。これらに該当する人は抗凝固薬を飲んで脳梗塞を予防します。従来から使われてきたワルファリンに加えて2011年以降、新たに4種類の抗凝固薬が登場して広く使われています。


キーワード 抗凝固剤
現在ワルファリンに加えてダビガトラン、リバーロキサチン、アピキサバン、エドキサバンの4種類が使われている。脳出血のリスクが低く食事制限が不要などワルファリンの問題点が改善されるが薬価はワルファリンより高い。

産経新聞・不整脈シリーズより

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