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人間交差点、病院

入院していると医療ドラマがよく作られる理由が分かる。
病気は誰にでも平等にやってくるから、病院に来る人たちの傾向に一貫性も類似性もない。
なので、同じ病室に会計士と霊媒師と探偵がいてもおかしくない。
これならどんなドラマでも作れそうな気がする。

昔入院していた時(1985年頃)、同じ病室の人は銀行員とサラ金の支店長と建設作業員だった。その後、美容師が入ってきた。タレントも来る美容室らしくて、五木ひろしからお見舞いが来ちゃったよ、困ったなあなんて、分かりやすい独りごとを言っていた。。
同じフロアの奥に特別な個室があった。そこには地元のその筋の親分が入院していた。病院の掃除係がその特別室の様子を毎日報告してくれた。
お見舞いの果物かごがとんでもなく巨大で、大きさを競っているらしい。
エレベータ前でいつも子分が見張っていて、エレベータに乗るたびにドアを開けてくれるのが鬱陶(うっとう)しかった。
私の退院後だが、この病院には美空ひばりさんも入院されてきた。

どうです、病院って楽しそうでしょう。人生が交錯するね。

今では信じられないが、当時は入院病棟にも喫煙室があった。
患者は煙草を吸いながら世間話をしていたなあ。
「私ね肺気腫なんです。タバコ禁止なんですけどね、ゲホ、ゲホ」。
破滅的な人も多い時代だった。

さて、現在の私には4人の医師が関わっている。
耳鼻咽喉科が2名と放射線科が1名、それに全体の責任者となる医師だ。
と言ってもドラマみたいなチームという感じはなくて、それぞれが自分の役割を淡々とこなしている。
私に関するすべての情報、個人情報からおしっこの回数までデータ共有されているので、それを見れば一目瞭然なのだろう。
私のデータの中には、奥さんが作る料理は残さず食べる、みたいなことも書き込まれているらしい(看護師の情報による)。これは何の判断材料なの?

今の病棟に喫煙室はないし、患者間の交流もほぼない。
コロナで見舞客も皆無だ。入院期間も短くて患者の入れ替わりも多い。
昔の病棟に比べたら各段に静かで整然としている。退屈だ。

医療ドラマの未来に少し不安を感じる。

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