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最後の映画スター、バート・レイノルズ

最近は女性誌でヌード写真を披露する男性スターは珍しくなくなったけど、その元祖と言えば、バート・レイノルズでしょう。
彼は、1972年の雑誌「コスモポリタン」で毛皮の上に全裸で横たわるヌード写真を公開した。髭面で胸毛もじゃもじゃのバートの写真はその当時、とてつもなく衝撃的だったようだ。
それをきっかけに、一夜にして大スターになった、と言われているが、
私は同じ頃に主演した「脱出」が大傑作だったからだと思っている。

マネーメイキングスターだが、日本ではイマイチ

どのくらい大スターだったかと言うと、1978年から4年間、彼はアメリカのマネーメイキングスターのトップであり続けた。
しかし、残念ながら、日本ではあまり人気がなかった。
同世代のC・イーストウッドと大違いだ。私は大好きだったけどね。

スタントマンをやっていたこともあり、バカっぽいアクション映画が多い印象だけど、傑作もたくさんあった。
監督も手掛けた「シャーキーズ・マシーン」は、刑事ものとして雰囲気、映像、音楽のどれを取っても文句なしの傑作だった。

そのバート・レイノルズが80歳で主演した映画が、その名も「ラストムービースター」だ。
彼の役はかつて大人気だったけど、今は忘れ去られた映画スター。完全に彼をモデルにした脚本だ。
その彼が、ナッシュビルの映画祭に招待される。イーストウッドやジャック・ニコルソンも参加したというその映画祭に行ってみると‥。

老醜をさらして、体当たり演技

開巻、バートのヨボヨボぶりに衝撃が走る。杖を突きながら歩く様はまるで吉本新喜劇のようだ。
これはギャグ?演技?「運び屋」のC・イーストウッドの老体ぶりもすごかったが、その比ではない。バートはこの作品の翌年に亡くなっているので、現実の姿なのだろう。
ここまで、ストレートに老醜(あえてこの表現を使う)を見せたスターを私は知らない。これこそ、本当の意味での体当たり演技だと思う。

物語は、スターとファン、それぞれのエゴがぶつかり合うコメディだが、どちらも過去に拘泥(こうでい)して現実を見ようとしないことが作品のテーマとして浮かび上がってくる。バートは自分がスターではなくなったことを自覚できないのだ。この部分も実際の彼の人生と重なっている。
一見、楽屋落ち満載のお気楽映画のようだが、これは結構シビアな人生映画だなと思った。

かつての名作が換骨奪胎されて、よりリアルに

1974年の映画で「ハリーとトント」という映画がある。老人がアパートを追い出されて、猫のトントと放浪する話で、1975年のキネマ旬報ベスト1になった傑作だ。
「ラストムービースター」は、この映画ととてもよく似た設定になっている。10代の時に見た「ハリーとトント」は正直そんなに感動しなかった。
しかし、65歳で見た「ラストムービースター」はバート・レイノルズの老いた肉体をあえてさらけ出すことによって、かつての名作に負けない感銘を与えてくれた。

彼は最後まで全身アクションスターだった。
仕事に対する心構えとして敬服します。


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