「先生さようなら」第1話感想


「推しがいなければ見なかった」が覆るまで

ぶっちゃけると、推しの渡辺翔太が主演をすると発表された時の偽らざる心境は「嬉しいけど、よりにもよって今にこれか、マジか」であった。
世は旧ジャニーズバッシングで溢れ、無辜のタレントがとばっちりをくらっている真っ最中の発表であり、同年代の同職や仕事相手にドラマの概要を話すと全員愛想笑いと苦笑いを混ぜた顔で「あ〜…」と声をもらしていたくらいである。
原作を読むとますますその不安が膨れ上がり、社会人としての倫理観は「高校生と恋をする教師など真っ当な精神年齢ではない」とずっと警鐘を鳴らしているし、この段階ではこの作品は明らかにNot For Meだった。
それでも初の主演のため、インタビューなどを読み漁っていると「若い女性スタッフが主体の作品」であること、制作側の倫理観をなんとなく読み取れ、だんだんと前向きになってきた。
追加キャストが北香那さんだったのも大きい。気になった人は「春画先生」見て。R15だけど。

「ながら見」なんかさせるつもりはない冒頭30秒

人間だいたいの人が、何かに憧れたり、影響を受けて「〜になりたい」と思ったことはあると思う。私自身も進学の際に選んだ専攻は、中学の先生に薫陶を受けたもので、おかげで学生生活が退屈という経験をしたことはないが「〜になりたい」と思った当時の自分をはっきりと覚えている。
そうした記憶とともに、憧れや夢、目標は、無邪気で無垢で打算のないキラキラしたものであるとエンドロールの弥生が思わせてくれる。

しかし、田邑拓郎のそれはそうではない。

冒頭30秒の過去のダイジェストで、由美子先生とのキス(未満)、教職を辞す由美子先生、他の教員の語る「大人の責任」、納得できない若気の至り、幸せそうな拓郎と由美子先生の生活、霊安室、眼鏡をかけた拓郎の絶望の顔が流れる。
霊安室に入れるのは限られた関係性の人間だけなので、つまり二人が結ばれたことを片割れを喪った描写で暗示している。地獄か。
開始30秒の情報量じゃない。

17歳の拓郎は退屈で夢も目標もない、もっというなら相手に合わせて楽に生きようとする自我もない状態で、ひょんなことから由美子先生に恋をした。
由美子先生の「思うがままに生きるのって、楽じゃないんですよね」という言葉を受けて、拓郎は近くのノートに由美子先生の横顔を描き始める。

「高校生と恋をする教師など真っ当な精神年齢ではない」と冒頭に書いたが、27歳の田邑拓郎は17歳の田邑拓郎の亡霊の入れ物のようなものだ。
17歳の田邑拓郎が描いた絵があのスケッチブックに挟まっていることを27歳の彼は知っているはずなのに、わざわざ開いたのは、高校時代の彼の写し身のような弥生に引かれて、17歳の頃の顔を出した隠喩かもしれない。

永遠が叶わなかった愛と、由美子先生が生きていたならいつか昇華していたであろう教師に対する憧れと由美子先生から教師という職を奪った後悔、その結果の彼女の代理としての自己実現と自己否定をないまぜにして、学校という牢獄の中にずっと囚われているのが田邑拓郎である。
しかも眼鏡までかけて由美子先生の模倣をしている。ミミッキュかな。

「僕の全ては先生で夢中になれるものは全て先生から生まれるものだった」
キラキラ言葉なのに、どうしてこんなに地獄なのか。

ちなみに見終わった後、思い出しながら10時間以上泣いた。こんなにしんどいとは思わなかった。30分でよかった。すずめの戸締まり以来のショックだった。

改変された「救済のストーリー」

原作の「ちょっと空気読みがちだが明るくていい子」の弥生と違い、ドラマの弥生は、日々が退屈で夢も目標もないという過去の田邑拓郎の写し鏡である。
この強烈な改変は、17歳の少女を主人公にするのではなく、暗い過去を持った27歳の男性教師を主人公に据えた時点で避けられないものだったと思う。
制作陣も「決して許されない」「さようならをしなくてはいけない関係」とみなしている。
その上で「なぜその生徒を特別に思わなくてはいけないのか」を真剣に考え、拓郎が弥生を気にかけるのは過去の自分に似ていたからというきっかけを与えた。
今はまだ何も始まっていない拓郎と弥生の関係がどう終着するかはわからないが、この先、弥生が夢や目標を見つけたり自己実現にいたることは、そのまま拓郎を救済するのと同じだ。
前述のすずめの戸締まりの鈴芽も、震災によって負った罪悪感を抱え成長し、最終的に自己の抱える「4歳の鈴芽」を迎え、トラウマ回復と自己への愛を取り戻す。つまりはそういうことなんじゃないだろうか?と考えた。

どういいつくろっても「アラサーと女子高生のラブストーリー」であるから、「自己救済のストーリー」のクッションを置いてもらうことで、私のような頭の硬い「高校生と恋をする教師など真っ当な精神年齢ではない」と考えている人間でも楽しく見れているので、ありがたい改変である。

シナリオについて強く語ったが、映像がとにかくいい。やわらかな質感で、少女漫画的表現も多い。個人的には扉の使い方が好き。

https://tver.jp/series/srdkjz63ut


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?