第1話 大いなるツッコミ

小学校2年生の頃の話である。

僕の祖父は松田雄作というとても偉大な漫才師だった。
幼稚園の頃から毎日のように遊び相手になってくれ祖父には毎日のように笑わせてもらった。
やはり漫才師ということもあり人を笑顔にさせる能力に秀でていた。自慢の祖父だった。

そんな祖父が突然自殺した。

母「おじいちゃんはね、もう戻ってこないの。」

母から祖父の自殺を知らされた時は悲しみより驚きの方が強かった。

侑大「どうしておじいちゃんは死んじゃったの。病気じゃないのにどうしておじいちゃんは死んじゃったの。」

僕は必死に母に問いかけたが母は涙を流すだけで何も答えてくれなかった。

僕は信じられなかった。あんなに笑顔にさせてくれた祖父が何故自ら命を絶ったのか。どうしても理由が知りたかった。

祖父の自殺した理由が分かったのはそれから3ヶ月経った時のことである。母から突然一通の封筒を渡された。

「松田侑大様
おじいちゃんより」

祖父のことを忘れたわけではなかったが、もう考えないようにしていた。なんで自殺したのか知りたかったけど、そっとしておこうと思った。

だからこの封筒を渡された時は変な感覚だった。
嬉しいような寂しいような。
小学校2年生の僕にとっては今まで経験したことの無いような複雑な気持ちになった。

だけどやっぱり気になった僕は、その日の夜に自分の部屋で恐る恐る封筒を開けた。その手紙の内容は今でもしっかりと覚えている。

「侑大へ
侑大がこの手紙を読んでいるということはおじいちゃんはもうこの世にはいないということでしょう。
侑大は悲しんでますか、それとも喜んでいますか。
とても驚いているかもしれません。
なんでおじいちゃんは死んだのか。
侑大にはちゃんと伝えようと思いこの手紙を書いています。

おじいちゃんは自分の罪を償うために死ぬことを決意しました。
侑大にはまだ難しくて理解できないことかもしれません。
でも侑大が悪いことをしたら先生やお母さんに怒られるのと一緒のことです。
おじいちゃんは悪いことををしてしまいました。
だから神様に怒られに行くのです。

おじいちゃんは人を殺してしまいました。
もちろん鉄砲で撃ったり包丁で刺しちゃったりしたわけではありません。叩いたり蹴ったりしたわけでもありません。

おじいちゃんはツッコミで人を殺しました。

侑大にはまだ難しい話かもしれません。
でも侑大にこれだけは伝えておかなければいけません。

ボケを生かすのもボケを殺すのもツッコミです。
笑いを生むのも笑いを消すのもツッコミです。
笑いは幸せを呼びます。幸せは平和を築きます。
だからこそツッコミには責任が伴います。

大いなるツッコミには大いなる責任が伴う

このことだけは忘れないでください。

おじいちゃんのようにだけはならないでね。」

この手紙を読み終わった時、心の内から何かが湧き出てくる感じがした。

大いなるツッコミには大いなる責任が伴う。

松田侑大はこうしてツッコミ担当の道を歩み始めたのであった。