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ビールブランドが作ったおバカケータイがエモい

新しいトレンドが広がり出すと、それに反発する逆心理的な性質や過度な露出に対する疲労感など、心理的な理由から逆方向のトレンドが現れることはよくあることだ。

たとえば、デジタルに対する反作用として、近年、アナログ属性を持つモノの流行りがその代表的な例だ。
スマートフォンを活用した日常とコミュニケーション、メディアの享受を中心としたデジタル文化の拡散は、スマートフォンの普及時期から現在まで続く世界的なメガトレンドと言える。その反面、デジタルより遅いけど温もりがあり、不便だけど人間味のあるなアナログで、デジタル世界の空虚感を癒そうとする動きも目立つ。デジタルデトックスのような新しい言葉がその動きを物語っている。

このようなデジタルデトックスの一環として、最近、スマートフォンの便利な機能を無くした携帯電話の発売が増加している。dumb phone(おバカケータイ)と呼ばれるこれらの携帯電話は、欧米の若い世代に人気があるという。いわゆるガラケーの華麗な復活だ。

ビールブランドが作った携帯電話

オランダのビールブランド「ハイネケン」は、4月のミラノデザインウィークで、クリエイティブブランド「ボデガ(Bodega)」とのコラボで「The Boring Phone」という名前の携帯電話を発売した。デバイスの製造はフィンランドのdumb phone製造会社「HMD」が行う。

Boringという名前の通り、この携帯電話はインターネットに接続できない。文字と通話、そして30万画素のカメラという限られた機能しか持っていない。2000年代Y2K感たっぷりの半透明でレトロなデザインもまた目を引く。
5000台限定製造で直接購入できる製品ではなく、イギリス内でのソーシャルメディアのプレゼントイベントを通じて提供されるとのことで、今年末他の国でも発売予定だという。
また、6月にはThe Boring Phoneとは別で、スマートフォンを退屈させるアプリを配信する予定だそうだ。

美味しいビールを楽しむ時間を邪魔させない

以前から「ハイネケン」デジタル技術やソーシャルメディアに対する警戒心を喚起する広告キャンペーンを実施してきた。パソコンを終了させる栓抜き「The Closer」や、メタバース上で体験できる仮想ビール「Heineken Silver」などがその例だ。

「The Closer」はBluetoothでパソコンに接続する新しいコンセプトの全抜き。「The Closer」を使ってハイネケンのボトルを開けるとパソコンが自動的にシャットダウンする仕組みだ。ビールを飲む時間だけはデジタルデトックスに集中してほしいという意図が伝わる。
「Heineken Silver」は、メタバース上での体験と実際の体験を結びつけ「現実世界で楽しむビールより、爽快なものはない」ことを示そうとした。 一時期に流行っていた様々なブランドがメタバースに無分別に参入する現実を批判する発想とも言える。

これらの事例を総合すると「ハイネケン」の競合相手は、デジタルデバイスやソーシャルメディアなど、おいしいビールを純粋に楽しむ時間を妨げる全ての物なのかもしれない。
そして、このような競合相手に真正面から対抗すべく、ビールという製品を超えてテクノロジーを活用した創意的なソリューションを実際に作って世に送り出すのが印象的だ。

ビール以外のものでビールを語るマーケティング

「ハイネケン」が世界的なビールブランドとして成長できたのはマーケティングの力が大きい。
1914年に創業者が退任し、彼の一人息子である「ヘンリー・ピエール・ハイネケン」が経営権を引き継いだ後「ハイネケン」の本格的な復興期が始まった。 彼はビールの開発よりもパッケージと輸出に関心が多かったらしく、1929年からボトリングシステムを適用した瓶ビールを生産し輸出するようになった。他のブランドとの差別化を図るためにボトルの色を茶色から独自の緑色に変更した。そのイメージは今も受け継がれている。

1948年には広告とブランディングに集中した。「買い物をする女性が楽しむハイネケン」というスローガンが反響を得て売上にも大きく貢献したとのこと。これを皮切りにどのビールブランドもやっていなかった広告分野に力を注ぎ始める。このようなブランドの努力は現在も続いており、クリエイティブで奇抜な広告、企業イベントとソーシャルメディアなどの組み合わせで大きな波及力を持つようになる。

一例として、2009年「ハイネケン」はサッカーファン向けにクラシック演奏会に装ったサプライズパブリックビューイングのイベントがある。「ACミラン」と「レアル・マドリード」の試合日に行われたこのサプライズイベントは、リアルタイム放送を通じて150万人が視聴し、1千万人がニュースを通じてハイネケンのブランドを認知するきっかけになった。その後、サッカーの試合の旅に飲みたいビールとして消費者に刻印され、年間売上200%上昇の要因となったそうだ。

このように「ハイネケン」は、企業中心の思考から脱却し、顧客と企業が一緒に作っていく開放的な参加型ブランディング施策を重ねてきた。商業的なイメージよりも消費者を感動させるブランドとして良いイメージの構築に成功した。
ビールではない意外なものでビールを語る、これがハイネケンのマーケティングの力ではないだろうか。

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