パリの地下鉄
ゆらり、ゆられて
我々は薄暗い胎内を蛇行して行く
パリの地下鉄は
下水の匂い、湿っぽい熱気、色々な民族の香り、がする
老も若も、黒もオリーブも白も、モノトーンも極彩色も、
貧も富も
ありとあらゆるものが、この古めかしい鉄の箱に詰め込まれて
ガタンゴトンと蛇行して行く
地上の繁栄など知る由もない、
薄暗い構内、陰気な車内、
うつむく人々…
巻き毛、赤毛、ドレッド、ブロンド、ターバン、スカーフ、サンダル、ブーツ、半世紀前のツイード、Gジャン、毛皮のコート
ガタンゴトン めいめいが目指す先
網の目に張り巡らされた、上空からは見ることのできない楽園
花売り、アコーディオン弾き、聞いたことのない言語、
大きな荷物、ポケットにコイン
ふてぶてしさ、不機嫌、沈黙、
愛の囁き、音漏れするイヤホン、
哲学書、B.D.、さかんに行き交うメッセージ
何も見えない外の闇
自らを映した車窓
破れたビニールシート
窮屈そうに向かい合った4人組
ドバッと人と吐き出しては、
その倍もの人々を瞬時に飲み込んで閉まるドア
無数の段差、ビリビリになった広告
南国のフルーツ、まがいモノのバック、
分岐点のギター弾き
無数に枝別れた連絡通路、また階段を昇っては降りて…
いつの間にか見失ってしまった案内板
地上へと続く長いエスカレーター
立ち止まってはいけない
考えてはいけない
都市が刻み続ける、白昼夢のようなリズムに
ただ黙って身を委ねればいいのだ
ゆらり、ゆられて
巨大なパリの胎内を
我々は今日も彷徨い行くのだ
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