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あっちゃんへ 最後の挨拶

軽く続きものになっているので、未読の方はよかったらこちらからどうぞ。

「またあした」と書いてから一週間が過ぎようとしています。
この間、たこ焼き娘は再び眠りにつきました。
今、これを書いているのはたこ焼き娘が52と呼んだ今に生きる52歳の私、です。

まずは櫻井敦司さん、あなたにようやく「心からありがとう」を言えるようになったのを報告します。

29日のチケットが取れないまま日が進み、たこ焼き娘と私はどんどん憔悴していきました。28日、ついにチケトレも終了し、最後の望みが絶たれると茫然自失でした。この気持ちのまま年を越すのか、と。

ところが、またもやあなたが社長を務めていた会社から救いの手が差し伸べられました。ツアートラックが武道館に来る、というではないですか。
それを見た瞬間、思い出したんです。
私はもう東京ドームの「バクチク現象」に行けなくて地団駄を踏んだ高校生ではないことに。東京は遠く、自力では行けなかった子供ではないことに。
そう、武道館なんて普段の行動範囲です。行けばいいんですよ、行けば。チケットがなくても空気は感じられます。物販ブースもあるし。
現金なもので、決心した途端にたこ焼き娘は元気を取り戻しました。私は財布のことを考えると若干胃が痛みましたが目を瞑ることにしました。
私だって、行きたいんだから。

午前中に無理やり仕事を納め、はみ出した部分は正月返上でやることにしてあなたがいる約束の場所に向かいました。
午後3時前には到着したでしょうか。
武道館付近はすでに臨戦態勢でした。
まずはツアートラックを見に行きました。豊洲でもチャンスはあったけれど、あの時は「少なくともCeremonyに行ける私は行けない人たちに場所を譲るべき」と判断したんです。
でも、5人の姿が並ぶツアートラックを見られるのは最後かもしれないと思うと、小さな後悔となって胸に残っていました。これさえなくなれば、私が自力でやれることは全部やったことになります。
無事に会えた”ツアトラちゃん”は、あなたが好きといった冬の、抜けるような青空の下でみんなに取り囲まれていました。
祈るように手を合わせるあなたの姿を目に焼き付けました。(カメラにも)
名残惜しい気持ちもありましたが、物販に並ぶことにしました。実は私、「並ぶ」が大嫌いで今までほとんど物販ブースを使ったことがなかったんです。ツアーグッズにもそれほど執着はありませんし。まして今回は通販で欲しいものは抑え済みです。並ぶ理由はない。
でも、今回はどうしても「これが最後」が頭について離れなかった。
最初に今井さんが「続ける」と宣言し、会報でもヒデがまさかの懇願という形で続投を明言してくれました。
だからBUCK-TICKはなくならないんだ、とたこ焼き娘に言い聞かせることはできました。でも、本当は私も不安でした。どんな形になるのか、が。
メンバーがあっちゃんを尊重しなかったり、意向を無視したりすることはない。絶対にない。それはわかっているつもりでも、やはり不安でした。

結局、馬鹿みたいな杞憂だったんですけどね。

それはさておき、事前通販の実施が奏功し物販列はさほど長くなく、私も大人しくその尾につくことができました。そして、並びながら、中から聞こえてくるリハの音に耳を傾けていました。
アニイのドラムとユータのベース。そして、あっちゃんのものらしき声。
たった数メートル、いくつかの壁の向こうにあなたたちがいる。胸が潰れそうでした。私はこの障壁を超えられなかった、と。
でも、もう仕方ありません。LIVEが始まるのを確認したら帰るつもりで、18時半になるまで武道館を眺めることにしました。
そうそう、その途中、「名盤ラジオ」というYou Tube番組を主催するお二人とお話できたんです。自分より若いファンとお話することなんてめったにないのでとてもよい時間になりました。それにこの人たち、直前の放送でまるで今回の一曲目を予言するような話をしていたんですよ。大したものです。脱帽です。

18時半が近づくとチケットがある人たちは武道館に吸い込まれていき、外には入れないけれども諦めきれない人たちだけが残りました。
聞いたところによると、普段はこういう人たちは蹴散らされるそうですね。
でも、あの日は捨て置いてくれました。残った人たちも騒がず、通行の妨害にならないよう各自が気を使って、ただ武道館を眺めていました。
やがて「THEME OF B-T」かな? と思しき音と歓声が聞こえてきました。
しばらく聞いてさあ、帰ろうと思った瞬間です。「疾風のブレードランナー」だとはっきりわかる音が耳に入ったんです。
え? 武道館ってこんなに音漏れするの?
足が動かなくなりました。というより、たこ焼き娘が「ここにいる!」と駄々をこねはじめました。いや、これから無茶苦茶冷えるよ? とは思ったものの、私も同意するしかありませんでした。
それからの2時間半。私たちはずっと漏れ聞こえてくる曲に耳を傾けていました。
「さくら」と「太陽とイカロス」の時は、たまらず泣きました。特に「太陽とイカロス」では周囲の人たちも嗚咽を漏らしていました。
時間が進み、芯から凍えました。
でも、もう帰れません。帰りたくなかった。
一度音がやみ、アンコールのコールが聞こえ、再び音楽が始まりました。その後、音の空白が異常に長い時間帯がありました。私はその間にこんなツイートをしています。

予想は当たっていました。異例のMCコーナーだったんですね。
備忘のために、新聞記事やTwitterなどで得た情報から再構成したコメントを残しておきます。

ユータ
「今日はたくさん集まってくれてありがとうございます。今日、来られなかった全国のファンの皆さん、ありがとうございました。
時間がない中、こんなステージを作ってくれたスタッフの皆さん、ありがとうございます。
1985年、新宿JAMに5人が立って。それからデビューしてツアーに行けるようになり、たくさんの皆さんとライブを楽しめました。BUCK-TICKはライブバンドなので、ライブをして成長したと思っています。そして、皆さんと作ってきたと思っています。あっちゃんは天国へ行ってしまいましたが、BUCK-TICKはずっと5人です。どんな未来になるか分かりませんが、一つだけ分かっていることは、これからも、皆さんとBUCK-TICKを続けていくことだと思っています。みんなでずっとずっと大切にしてきたBUCK-TICKを、これからも皆さん、一緒に作っていきましょう。よろしくお願いします」

アニイ
「ド不良だった弟が、こんなに立派なコメントを言うとは思っていませんでした(笑)。
すいません。前代未聞というか、そういう状況になりました。続けていいんだか、やめた方がいいのか、いろいろと考えました。こういう風にファンの皆さんがいるので、継続させて頂きたいと思います。どういう形になるか分かりませんが、来年は新譜のレコーディングに入ると思います。今井、星野の脳内にはまだ何千曲とアイデアが眠っていると思います。天才なんで。俺たち兄弟は努力の人なので、いっぱい練習します! それを発表したいと思います。期待していてください。これからもよろしくお願いします、第二期のBUCK-TICKということで」

ヒデ
「今日、新しい一歩を踏み出すことができました。不安の中、武道館に足を運んでくれて本当にありがとう。不安だったよね? みんな不安でした。でも、PARADEはこれからも続きます、もう一度言います。PARADEは続きます。この5人で」

今井さん
「人生は容赦ねえなあ。面白いぐらいドラマチックで。でも、笑えねえよ。何死んでんだよ、な? 
大丈夫だよ。続けるからさ、一緒に行こうぜ。

あっちゃんは死んだけど、別にそれは悪いことじゃありません。当たり前のことです。だから、悲しいけど、泣いてもいいけど、号泣してもいいけど、苦しまないでください。死んだことより、いなくなったことより、生きていたということ、存在していたということを大事にしてください。
あっちゃんはまだ、天国には行っていません。まだ、この辺にいます。ずっと一緒にいると思います。来年、BUCK-TICKは新曲作って、アルバムを作ります。最新が最高のBUCK-TICKなんで、期待していてください。
でも、覚悟していてください。次は3人になります。それでもPARADEは続けます。次は2人、次は1人になり、最後の1人はオレかな。それでも続けるんで、みんなを連れて行きたいと思っています。

今日、12月29日はBUCK-TICKにとってハレの日です。乾杯をする日です。
乾杯しようか。
乾杯!
ありがとう。みんなも帰りに乾杯して、BUCK-TICKの話、あっちゃんの話をしてください」

21時頃、「NEW WORLD」が流れてきました。
終わるんだな、と思いました。
中の観客が出てき始めたのを見て、私も帰路につくことにしました。でも、まだ音がしていました。しばし足を止めましたが、LIVE中と違いもう何か分かるほどの音量ではありませんでした。
後に見かけたのですが、普段の武道館はあそこまで音漏れしないそうですね。だから、もしかしたら、外組のためにわざと漏らしてくれたんじゃないかと勘ぐる人たちを見かけました。それが本当なら感謝しかありません。おかげでようやくたこ焼き娘が引っ込むことを承知してくれたんですよ。
帰りの電車の中、グリーン車で周囲の人が減ったのを見計らい、たこ焼き娘と私は、今井さんの言葉も知らないまま自主的に今日という日に乾杯し、そして語り合いました。
17歳の高校生が熱望するもできなかった藤岡訪問とバクチク現象への参戦が(一応)叶ってフラストレーションは解消したようでした。

寒空の下、武道館の外で音漏れを聴くなんてむしろ一回やってみたかったのしれない。だっていかにも青春じゃん?
これで満足したよ。
だから私は引っ込む。
52は、52の先に進んで。

ようやくそう言ってくれました。
でも、いくつか約束をさせられました。
家のどこかにあっちゃんの写真を飾ること。
買っていないライブ盤CDなども全部揃えること。
今井くん(たこ焼き娘は今井くん呼びなんです)への信仰wを誓うこと。
そして、これから先なにがあっても、死ぬまでBUCK-TICKを信じて付いていくこと。
全部無条件で呑みました。特に嫌もない……というか、私もそうするつもりだったので。

そんなわけで、あっちゃん、今回が最後の挨拶となります。

あなたに会えて良かった。
心からありがとう。
もう一度、ありがとう。あなたを愛している。

私は未来に、第二期BUCK-TICKに、New World に旅立ちます。
野を超え闇をゆきます。太陽の下を。月光の下を。
仮面の下で泣き笑いしながら。
あっちゃんと一緒にね。

あ、そうそう。
たこ焼き娘がアニイの本は魔法の本だって言ってたやつですけど。
あれ、帰りの電車でアニイの自伝を読み進めていたら、ストーリー通りの光景が次々と高崎線沿線に現れたんですよ。
バンドを組んだ話の時はプラットフォームにギターケースを持った高校生が現れ、弟が不良になった話の時は車内に今どき珍しいヤンキーが乗ってきて、アニイがユータに引っ張られて東京行きの電車に乗りながら夕景を見るくだりでは、たぶんそれとほとんど変わらないのかなっていう景色が窓外を流れ。
たこ焼き娘が魔法と思うのも無理がないぐらい、変な時間でした。アニイ、たこ焼き娘によい贈り物をくれてありがとう。

さて、今年の想い今年のうちに、が終了しました。
これから大掃除の続きをして、買い物に行きます。あっちゃんのせいでとてつもない散財をしたので今年はお節なしの正月です。
勘弁してよ、ほんと。

そして最後に。
読んでくださった皆様も良いお年を。
2024年も悲しいことはあるでしょう。でも、生き延びましょう。
そして12月29日には武道館でお会いしましょう。

愛してます。
幸せに。

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