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何も無くなったとしても【0:2:0】【女性同士/ラブストーリー】

『何も無くなったとしても』
作・monet

所要時間:約10分

◆あらすじ◆

二十歳の頃に「お互い25歳になってもまだ駄目だったら一緒に住もうね」という約束をした二人が、本当に一緒に住むことになるというお話です。

桜/♀/鈴白 桜(すずしろ さくら)。ブラック企業でメンタルを壊し退職。失業手当で生活をしながら精神科に通うが、良くなる兆しがまったく見えず、寄り添ってくれていた彼氏とも破局。風子とは5年くらいの付き合いで、二十歳の頃に「お互い25歳になってもまだ駄目だったら一緒に住もう」と約束する。

風子/♀/山峰 風子(やまみね ふうこ)。桜とは5年くらいの付き合いで、二十歳の頃に「お互い25歳になってもまだ駄目だったら一緒に住もう」と約束をするが、その後すぐ彼氏ができる。結婚も視野に入れて5年ほど付き合っていたが破局。同棲していた家から近かった会社も辞める。

◆ここから本編スタート◆

 (玄関のカギを開ける)

桜:……だぁーっ!もうマジで疲れた!
この家、わりと駅から遠くなーい?

風子:そう?私は余裕だったけど。というか、前住んでたとこの方が駅から遠かった。

桜:……元彼くんとの愛の巣ね。

風子:あいつ一人で何でもできるから、私が居なくなっても「ていねいなくらし」ちゃんとしてそう。

桜:朝はベーコンエッグにイングリッシュマフィン。

風子:そうそうそんな感じの。

桜:洗濯物からはいい感じの柔軟剤の香り。

風子:あはは、マジでそんな感じ。

桜:おしゃれなマグカップにはブラックコーヒー。それを片手に在宅勤務開始。

風子:……駄目だ桜。想像しちゃった。くそムカついてきた。

桜:元気かなあ。康太(こうた)くん。

風子:おいやめろ。

桜:いや仮にも私とも元・友達だった訳じゃん?
あの、風子の「浮気勘違い事件」で完全に縁切れた訳だけど。

風子:わりと記憶に新しい事件出してくるのね。

桜:「桜にだったら彼氏寝取られてもずっと友達でいる!」って言ってた風子が、いきなり「口座」教えてっつって「もう絶交するからこれ手切れ金ね」って。

風子:あーーーもうやめろそれは本当に悪かったからあ!

桜:いや、別にもういいんだけどさ、普通にびっくりしたよね。

風子:だあってさぁーーーー!!

桜:いやね、私にも落ち度はあるよ。ラインでゲームの相談とかいろいろ乗ってたし?
でも「浮気」はマジでしてないし、てか私、背低い男とセックスできないの知ってるっしょ?

風子:……出たよ、高身長主義。

桜:そもそも!その時期の私、仕事辞めてクッソ病んで引きこもってたから、家と徒歩五分のコンビニの行き来しかしてない。

風子:めちゃリアルなのやめてつらい。私もここ最近までそうなってたから。

桜:でもさー?風子。

風子:なにー?桜。……あ、言わんとしてることは分かる。

桜:……二十歳(はたち)の時にさ?

桜:「お互い25歳になってもまだ駄目だったら一緒に住もう」って話、したじゃん。

風子:それが現実になっちゃったねーってことでしょ?

桜:うん。

 (間)

風子:仕事でメンタルぶっ壊し、失業手当で生活しながら精神科に通うも全く良くなる兆しは見えず、あれだけ優しく寄り添ってくれてた彼氏の「山田さん」だっけ?にも逃げられて、毎日リストカットとオーバードーズに溺れる女、「鈴白 桜(すずしろ さくら)」~!!カンカンカン

桜:ゴング、口で鳴らすのやめて。

風子:次、次やって。

桜:えーーこほん。
彼氏の「康太くん」と交際期間五年を経て、お互いの親への顔合わせも済ませ、婚約指輪を交換し同棲開始。しかしながらー?外仕事で残業の多い風子さぁん、在宅勤務で風子さぁんの倍の年収を叩きだす「康太」さぁん!

風子:待って待って待って待って。

桜:何?

風子:そっから説明する?

桜:駄目?

風子:つらいんだけど。

桜:駄目?

風子:(ため息)いいよ。

桜:えー、ということで再開させていただきまして!ごほんごほん!
確実に二人の間に出来ていく溝!それはそれは深い溝!
そんな中「康太」さぁんは?ゲームで知り合った顔も知らないピチピチJKと恋に落ちるのであった~!!
お互いの親に説明を済ませ?指輪を返して手続き済ませて、同棲してた家から近かった会社も辞めて、
今では毎晩ストロングゼロに溺れる、酒カス女~!!「山峰 風子(やまみね ふうこ)」~!!(※拍手)

風子:いや拍手するのも違くない?

桜:そうかな?

風子:うん。

桜:いやでも本当に大変だったね。

風子:10キロ痩せた。

桜:私には食べろって言うくせにね。元栄養学部。

風子:頭では分かってんのよ、こう、ね。
でもまあ、身体がついてこないといいますか?

桜:頑張ったね。

風子:頑張ったよ。

桜:しんどかったっしょ。

風子:桜もね。

桜:私はー……昔からこんなんよ。
でもなあ~!風子には幸せになって欲しかったな~!

風子:私も桜には幸せになって欲しかったよ?

桜:絶対結婚すると思ってた。結婚式のスピーチ読みたかったもん。

風子:何言う気だったの(笑)怖いんだけど(笑)

桜:友人代表!!!したかったじゃん???
その為に、んー、そこまで性格合う訳でもなかった「康太くん」と?仲良くしてた、みたいなところある。

風子:いやマジであの「浮気勘違い事件」の時のさ、桜のブチ切れ具合やばかったもんね。

桜:今まで思ってたこと言ってやっただけだよ。

風子:あの時さ、言い合いみたいになって、あいつ、桜に向かって散々暴言吐いてたじゃん?

桜:あー。うん。別に痛くも痒くもなかったけど。
「低身長男子」に言われた暴言なんて、小型犬に吠えられるよりもダメージ低い。

風子:あいつさ、あれだけ虚勢(きょせい)張ってた癖に、あの後ガチで落ち込んでやんの(笑)

桜:え、ダサ……。ないわ、マジ無いわ。もっと無理になった。
仕事で重大なミスしてクビになってJKにも振られてうつ病になって最底辺まで落ちてほしい。

風子:呪詛が怖い呪詛が怖い。

 (一拍)

桜:まあ?でも、いつまでも玄関に突っ立っててもあれですし。

風子:……新居、入りましょうか。

桜:見て見て風子!靴の収納ボックスある。

風子:あ、それは助かるかも。

桜:風子は靴いっぱい持ってるもんね~!

風子:まあ仮にも?元港区OLですから。

 (間)

 (部屋に入る二人)

桜:何も無い部屋ってさ、広く感じるよね。

風子:ここから二人で散らかしていくわけですか。

桜:……その前にしたいこと。

風子:何も無い部屋で二人で寝転がる。


 (床に寝転がる二人)

桜:はーーー!!あーー!!

桜:ここまでの疲れもあってか、もー寝ちゃいたいね、このまま!

風子:床で寝たら身体痛くなるよ。

桜:そんくらい分かってるよ。……社畜時代に何度も経験した。

 (間)

風子:……あのさ。

桜:ん?

風子:……良かったのかな。

桜:何が?

風子:うちらレズでも何でもないわけじゃん?

桜:そだね。むしろ男好きの部類。

風子:……お国の制度的にはさ、結婚と同じじゃん。

桜:え、今更?

風子:いやさ?ほんっとーにいいのかなって。

桜:……五年間。

風子:え?

桜:二十歳(はたち)のときに約束してさ?それからお互い、いろいろあって、たくさん考えて。
五年という月日が経過した訳ですよ。

風子:……うん。五年経っても、やっぱり一番は桜だった。恋愛感情とかじゃなくてね?
……いや、むしろもう恋愛感情なのかな?

桜:私、レズじゃないけど、風子とだったらキスくらいはできるよ。

風子:いや何回も酔っぱらったときにしとるやんけ。

桜:だから、シラフでもできるよ。

風子:……はあ、それはどうも。

桜:手、つなご。風子。

風子:うん。

 (間)

桜:……レズだとか、レズじゃないだとか関係なしにさ、私は風子のこと好きだよ?

風子:私も桜のこと好き。一番好き。

桜:「絶交する」って言ってた時は、あんなにキレてたのにね(笑)

風子:……それでも、私のことを一番に理解してくれるのは、桜だけだよ。

桜:だからさー?んーとね?
「うちらはうちらなり」でいいんじゃないかなーって、思うわけですよ。

風子:ゆっくり過ごしたーいって、私ずっと桜に愚痴ってたもんね。

桜:そそ。スローライフスローライフ。

風子:別にそこにラブが無くても、負い目を感じる必要は無いわけだ。

桜:え。無いの?ラブ。

風子:いや、あるよ?ラブ。いやでもさ、そういうレズ的なラブっていうかさ、

桜:身体の関係的な?

風子:うん。そういうのは無くない?

桜:分かんないよそれこそ。二人で過ごしていくうちにそうなるかも。

風子:まじ?

桜:それが嫌になったら、そのときこそ本当の絶交だね、絶交。

風子:……絶交はヤダ。でもその時になってみないと分かんない。

桜:同じなんじゃない?恋愛も友情もさ。大して変わんないよ。

風子:……価値観が違(たが)えば、自然と離れていくもの。

桜:そんな中で、私と風子は五年間もずっと友達続けてる。

風子:……今更離れる方が想像つかないかも(笑)

桜:でしょ?

 (間)

風子:桜ー。こっち向いて?私の方見て。

桜:何?

風子:(※桜にキスをする)

桜:ん……。

風子:(※アドリブで一言)



風子:……あ、そろそろ家具の宅配来る時間。

桜:この何も無い部屋ともおさらばかー。

風子:当たり前でしょ。何も無かったら生活できないもの。

桜:……なんか、皮肉だね。

桜:私達、何も無くても心臓動いて生きてんのにさ。

風子:……きっと人生って、そーゆーもんだよ。


◆END◆

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