ヴァナヘイムの新世界創造計画【3:2:0】【ファンタジー/シリーズもの】
『ヴァナヘイムの新世界創造計画』
作・monet
所要時間:約50分
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◆あらすじ◆
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――「ヴァナヘイム」。新しい世界で幸せに暮らすために。
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※前作「ヴァナヘイムの国家転覆計画」の続きです。前作を読んでいないと分からない部分があるかもしれません。
前作→
※今回は恋愛要素をあまり含みません。
※胸糞要素・陰鬱要素を含みます。苦手な方はご注意ください。
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【登場人物】
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フェンリル/♀/N(エヌ)-フェンリル。コードネーム。戦闘部隊所属。年齢は15歳くらい。負けず嫌い。愛する人と大切な義姉を失い少しだけ強くなるが、まだまだ彼女の前に壁は立ちはだかる。【組織階級:C】
アールヴィル/♂/K(ケー)-アールヴィル。コードネーム。悪の組織の幹部補佐で、ナンバースリー。ボスの次の次に偉い人だが…。年齢は24歳くらい。喋り方は物腰柔らかな方だが…。【組織階級:SS】
ゲルズ/♂/T(ティー)-ゲルズ。コードネーム。戦闘部隊所属。年齢は20歳くらい。「女子供殺し」の異名を持つ。女性不信で子供が嫌い。【組織階級:C】
エイル/♀/Z(ゼット)-エイル。コードネーム。書いた文章がそのまま現実になってしまう超能力の保持者で、世界を壊滅させた張本人。年齢は10歳くらい。幼いが頭はいい。お喋りが好きだが、あまり感情は出さず、抑揚もつけずに淡々と喋る。異国の出身。【組織階級:B】
ロキ/♂/Y(ワイ)-ロキ。コードネーム。科学者・研究者チームのトップ。年齢は17歳くらい。若くして非常に優秀なマッドサイエンティスト。物心ついたときから組織に居たため、少し常識が外れている。世界が崩壊してからは、まだ幼い構成員・W-シヴの面倒も見ている。【組織階級:S】
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【世界観・用語・名前だけ登場する人物説明】
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大まかな世界観としては、国家組織と対立する悪の組織があるというお話です。
悪の組織の目的は国家転覆。国を作り変えることです。
台本上に出てくる名前は全てコードネーム。本名ではありません。
組織は
・戦闘部隊
・科学者・研究者チーム
・諜報部隊
と三つに大きく分かれています。
名前だけ登場するキャラクター
・T-オーディン
悪の組織のボス。
・W-シヴ
5歳にして大人を殺せるサイコパス。ロキが面倒を見ている。
・R-フレイ
科学者・研究者チーム所属。現在は重症で眠っている。ゲルズの元同級生。
・U-ウルド
人間型アンドロイド。現在は破損している。
・O-ユミル
悪の組織の女幹部でオーディンの元愛人。故人。
・T-イズン
N-フェンリル、T-ゲルズの元同僚。故人。
・J-ヘズ
「見える」超能力者。洗脳を受けていた。故人。
・M-フリッグ
孤児だったり事情を抱えた構成員の母親、又は先生のような存在。故人。
・Y-シグルズ
元戦闘部隊指揮官。フェンリルの想い人。故人。
・R-カーラ
元戦闘部隊所属。アールヴィルの恋人で、フェンリルの姉のようだった存在。故人。
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⠀【配役表】
︎︎ ♀フェンリル:
♂アールヴィル:
♂ゲルズ:
♀エイル:
♂ロキ:
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【ここから本編】
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●壊滅状態の組織本部●
エイル:……ねえ、ねえ!ウルド!!どうして返事をしないの!?
……壊れ、ちゃったの?
ねえ私、ウルドの言う通りに、ちゃんとお話書いたよ!
「ヴァナヘイム」っていう新しい国を作って、皆が幸せになるお話!
ねえ、読んでよ……私のお話……。
……やっぱり、返事しない。壊れちゃったんだ。
早くロキ上官やレギン上官に直して貰わなきゃ。
……皆、早く帰ってこないかなあ。
(エイル、U-ウルドに話しかけることを諦め、J-ヘズに話しかけ始める)
エイル:ねえねえ、ヘズもそう思わない?
ヘズの目を通して見た世界は、本当に凄惨なものだったけれど……
ヘズはいつもあれを見ているの?
それとも洗脳されているから分からないのかな?
(J-ヘズの反応は無い)
エイル:……ねえヘズってば!何か言ってよ!ウルドが壊れちゃって、今本部には、二人だけなんだから。……何か喋ってよ。寂しいよ……。
(エイル、ヘズの身体をゆする)
(ヘズの身体から大量の血が溢れ出す、もう息は無い)
エイル:ひっ……!!
血、だよね、これ……。こんなに、たくさん……。
ね、ねえ!ヘズ!……もしかして、死んじゃったの?
(間)
エイル:ねえ、私がお話を書いたから……?
私がお話を書いたから、死んじゃったの……?
ウルドは「皆が幸せになるお話」って言ってたのに……。
「皆が幸せになるお話」って何!?ウルド!!
ねえ答えてよ!!どうして動かないの!?
ねえ……ヘズも……やっぱり、死んじゃってる……。
ウルドも動かない。ロキ上官も、皆帰ってこない!!
独りぼっち!!そんなの嫌だよ!!誰か!!誰か私のこと見つけてよ!!
(間)
エイル:……これじゃ、組織に来る前と何一つ変わらない。
(場面転換)
●別所・更地と化した世界で●
(アールヴィルとフェンリル、二人で本部へ向かっているところ)
(O-ユミルの死体を発見する)
アールヴィル:これは……酷い殺され方だね。
フェンリル:ユミル上官……なんてむごい……。
アールヴィル:おそらくは他殺だろう。
フェンリル:国家組織ですか。
アールヴィル:……いや、違う。
フェンリル:え!?
アールヴィル:フェンリル、君の前であまりこういうことは言いたくないんだが、これは組織内での犯行だ。おそらく。
そして僕は、この殺し方に……覚えがある。
フェンリル:それって……うちの組織の誰かが、ユミル上官を殺したってことですか?
そんな……そんなことって……!
アールヴィル:少し待っててくれ。確認を取る。
(アールヴィル、通信機を取り出す)
アールヴィル:……おい、オーディン。ユミルが死んでいるんだが。
(ため息)……そうか。やっぱりそうだったんだな。
どういうつもりだ!?(※声を荒げて)
もう、うちの構成員がほとんど残っていないのも、分かっているだろう!?
……?地下施設?……ロキが、か?
君っ!!それを分かっていて、隠していたのか!?
Z-エイルの能力が発動する前に、構成員に伝えていれば、もっと多くの命が助かっただろう!!
(ため息)……もういい。切るぞ。
(機嫌が悪そうなアールヴィル)
フェンリル:あの……アールヴィル上官?
大丈夫……ですか?
何かすっごい怒ってて……揉めてた、みたいな……。
アールヴィル:ん?ああ。問題ないよ。(※機嫌を直して)
(一拍)
アールヴィル:ロキが作った、避難用の地下施設があるみたいだ。
生き残りは皆そこへ向かってるって。
僕らも向かおう。
フェンリル:はい!分かりました!
(フェンリル、何かに気づく)
フェンリル:……っっ!!伏せて!!
(国家組織の弾丸がかすめる)
アールヴィル:……ありがとう。フェンリル。君の洞察力は凄いね。
フェンリル:えへへ。育ての親譲りですよっ!
アールヴィル:……そうか。
(場面転換)
●現・組織本部・地下施設の一室にて●
(ベッドに横たわるR-フレイ)
(その傍らに座っているT-ゲルズ)
(そこへ入ってくるエイル)
(※ゲルズは女性不信のため終始挙動不審です)
エイル:……フレイさん、大丈夫そうですか?ゲルズさん。
ゲルズ:えっ!えっと……ああ、おそらくは。
命に別状は無いと。ロキ上官が。
エイル:良かったです。
ゲルズ:…………。(※気まずい)
エイル:……その。
ゲルズ:す、すみません!挨拶も無しに!
「戦闘部隊・階級Cクラス・T-ゲルズ」です!
エイル:あ……えっと、私の方が年下なんですから、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。
ゲルズ:あの……はい……えっと……
お心遣い、ありがとうございます。
エイル:ゲルズさんは、フレイさんの恋人ですか?
ゲルズ:(※食い気味に)とんでもない!!!
エイル:……ゲルズさんは、女の人が苦手、なんですか?
ゲルズ:……ぁ、えっと……そう、ですね。
エイル:私のこともですか?
ゲルズ:……えっと……。
エイル:苦手、なんですね。
ゲルズ:……申し訳、ございません。
エイル:いいんです。苦手なものは人それぞれですから。
でも私、嬉しかったんですよ?
ゲルズ:え。
エイル:誰も帰ってこなくて、ずっと一人であの組織跡地(あとち)に居たから。
あなたがフレイさんを抱えて戻ってきてくれた時、心の底から嬉しかったんです。
それからは、ボスも帰ってきて、ロキ上官が、生き残りの皆をこの施設に入れてくれました。
ゲルズ:……それは、良かったですね。
エイル:不思議です。
ゲルズ:な、何が、ですか……?
エイル:ゲルズさんは女性が苦手なのに、何故フレイさんを抱えて戻ってきたのですか?
それに、ゲルズさんとフレイさんは、同時期に組織に入ったとお聞きしました。
やっぱり、特別な存在なのではないですか?
ゲルズ:えっと……そうですね。
あー、、えっと……。同級生、なんですよ。元。
エイル:それは表に居たときの、ということですか?
ゲルズ:そう、ですね……。
俺は表に居たときに、こいつに殺されかけましたし、こいつは表に居たときに、俺に殺されかけてます。
エイル:ウィンウィンの関係ですね。
ゲルズ:ちょっと意味が違う気もしますが……。
エイル:でも特別な存在なのですね。
ゲルズ:まあ、ある意味では、そうですね……。
エイル:だったら、早くフレイさんに起きてほしいですね。
ゲルズ:あ……はい。まあ、そう、ですね。
ここで死なれたら、後味悪いので。
エイル:……私も一緒に、ここに居てもいいですか?
ゲルズ:え!?ど、どうしてですか!?
エイル:どうして、って、フレイさんが心配だからです。
ゲルズ:……そう、ですか……(※気まずい)
エイル:あと、ゲルズさんともっと仲良くなりたいからです。
ゲルズ:え!?
いや、その……ど、どうして、ですか?
俺なんて、やめた方がいいですよ。
エイル:女子供殺し専門だからですか?
ゲルズ:……えっと……。(※そうだよと言えず気まずい)
エイル:女子供殺し専門と、例え呼ばれていようと、ゲルズさん、あなたは現にこうしてフレイさんを助けているし、今もこうして傍(そば)に付き添っている。
それだけで、私にとっては優しい人なんだって判断できます。
……だから、こうして隣に座っていてもいいですか?
ゲルズ:は、はい……どうぞ。ご自由、に……。
(場面転換)
●組織本部・跡地●
(まだ幼いW-シヴを抱っこしながら、ウルドのパーツを探すロキ)
(※一人芝居ですが、女児を抱えながら、という前提でお願いします)
ロキ:わ~!跡形もないねえ~!
えーっと、でも、ウルドのパーツはとても重要な物だ。
万が一、いや、億が一にでも、国家組織に漏れるようなことが、あっちゃいけないね。
(シヴがぐずりだす)
ロキ:ああ~、、ごめんよシヴ。よしよ~し。
う~ん。いつも遊んでいたお人形は、もう無いんだ……。
切り裂きごっこはできないんだよ。ごめんね。
っあ~、う~ん……どうしよう。そうだなあ……。
あ。
あんなところに……。
(国家組織の生き残りを見つけるロキ)
ロキ:……シヴ。見えるかい?(※抱っこして目線を上げてあげるイメージ)
あそこに「ある」、おっきな動くお人形。切り刻んできてくれないかな?
(シヴを見守りながら、ロキ独り言)
ロキ:……最年少だからと、何が何でも守ってくれと言われて、地下施設に連れ込んだはいいものの、僕には子育てなんて分かりませんよ。M-フリッグ。
シグルズのように上手くいくとは、到底思えません。
それこそ僕は、物心ついたときから、人間の常識を知らない。……人でなしだ。
M-フリッグ。実の母親よりも、僕の母親で居てくれた女性。
お慕い……申しておりました。
どうか、ご冥福を。
(場面転換)
●現・組織本部・地下施設●
フェンリル:(※軽く息を切らして)……やっと、着いた。
アールヴィル:おい!!誰かいるか!!ロキ!?オーディン!?
(静かに扉を開けて、エイルがひっそりと出てくる)
エイル:あ、あの……
アールヴィル:君は……
(エイル、敬礼)
エイル:はっ!お初にお目にかかります!
「科学者・研究者チーム預かり・階級Bクラス・Z-エイル」です!
フェンリル:(※息をのんで)……この子、が……
アールヴィル:フェンリル。
フェンリル:す、すみません!だって私より幼い……
アールヴィル:エイルは君の上官だぞ。
フェンリル:はっ!大変失礼いたしました!
「戦闘部隊・階級Cクラス・N-フェンリル」です!
アールヴィル:僕はK-アールヴィル。階級はSSクラスだ。
エイル:えす…えす……。
アールヴィル:エイル、他に人はいないかい?
ロキは?オーディンはどうしたのかな?
エイル:ロキ上官は、ウルドのパーツを探しに組織跡地へ、シヴを連れて、行ってしまわれました。
アールヴィル:……シヴも生き残っていたのか。
エイル:ええ。ロキ上官とずっと一緒にいましたから。
それでえっと、ボスは……私にも分かりません。
アールヴィル:そうか。分かった。もう十分だよ。
エイル:あと、この部屋の奥に、フレイさんが寝ています。
重傷を負っているみたいで、意識がまだ戻らなくて。
ゲルズさんが今は、付き添っています。
フェンリル:……「ゲルズ」さんが?どうしてフレイ上官に?(※怪訝そうに・「ゲルズ」の名前に反応している)
アールヴィル:まあまあフェンリル、落ち着け。
……うんうん、そうか。
たくさん教えてくれてありがとう、エイル。
エイル:いえ……。奥の部屋が、空いていますので。お二人は、そこで休まれるとよいかと。
アールヴィル:ありがたく使わせていただくよ。
(俯いているフェンリル)
フェンリル:……ゲルズさんは、今その部屋におられるんですよね?(※声のトーンを落とす、雰囲気を暗くして)
エイル:あ、はい。いますが……
(フェンリル、勢いよく部屋の扉を開ける)
フェンリル:っっゲルズさん!!!
エイル:きゃっ。
アールヴィル:おい!!フェンリル!!
(部屋の中・フェンリルを見るゲルズ)
ゲルズ:え、、えっと……フェンリルさん……
あー……生き残って…らっしゃったん…ですね。
フェンリル:どうして!!
どうしてあの時、イズンを見捨てたんですか!!
ゲルズ:っっ……。
フェンリル:ゲルズさんの位置からなら、助けられたはずです!!というか、ゲルズさんになら絶対助けられたんです!!なのにどうして……!!
(沈黙、その後ゲルズが笑いだす)
ゲルズ:……ふふ、ははは!はははは!!!あーっはっはっは!!!
(間)
ゲルズ:いや、フェンリルよお、お前さあ、前から言おうと思ってたんだが、
一一本当にお前は悪の組織の構成員なのか?
(間)
フェンリル:私……は……戦闘部隊・階級Cクラス……N-フェンリル……
ゲルズ:大人を信じられなくなったやけくそで、この組織に入って、シグルズ上官の情けで生きてきただけのお前は、……本当に「悪」なのかよ?
お前の言ってる「仲間がどうだこうだ~」の理論はよお、まるで正義の味方みたいだぜ?
俺はそんなの、まっぴらごめんだな。
……俺の異名知ってんだろ?
フェンリル:……「女子供殺しのゲルズ」……。
ゲルズ:そーゆーこった!!
俺は女が嫌いだ!子供が嫌いだ!だから殺すし見捨てる、助ける義理なんざねえ!!
イズンだったか?あいつ面倒臭かったんだよな。
自分は人殺すたびにゲーゲー吐く癖に、人にはいちいちケチ付けやがってよお。
あの時死んでくれて、清々(せいせい)したぜ!!
フェンリル:(※かぶせて)もうやめて!!!
アールヴィル:……フェンリル。もう行こう。
エイル:その……私からも、これ以上は。
フレイさんの身体に障るといけませんし。
フェンリル:……も、申し訳ありません。行きます。
●地下施設・別室にて●
フェンリル:(※大泣きしている)
アールヴィル:フェンリル……
(アールヴィル、フェンリルの頭を撫でようとして、カーラとの記憶が蘇る)
アールヴィル:……ふふっ。
フェンリル:何がっ……おかしいんですかっ……。(※泣きながら)
アールヴィル:いや、いつだったか、カーラも、こうやって泣いていた時があったなって。
フェンリル:……え?カーラが?(※泣き止む)
アールヴィル:うん。カーラがね。
家族のことを思い出していた時だったかな。
泣いていたよ。子供みたいにね。
フェンリル:……カーラでも、泣くことってあったんだ……。
アールヴィル:意外だったかな?
フェンリル:はい。意外でした。
私、カーラみたいになりたくて、だからもう泣かないって決めてたのに、泣いちゃったのが、悔しくて悔しくて……。それでまた、泣けてきて……。
アールヴィル:でも、カーラも泣いてたんだよ。
フェンリル。
君の感情表現豊かなところは、短所じゃなくて長所だ。
無理に涙を我慢する必要はない。
あー……。
もっとも、一つだけ言わせてもらうとしたら、怒りの感情は、もうほんの少し、抑えてもらうと助かるよ。
フェンリル:すみません。気を付けます。(※鼻をすすって)
……でも、そっか。
泣いてもいいんだね、カーラ……。
●地下施設に戻ってきたロキとシヴ●
ロキ:たっだいま~!ウルド直りそうだよ~っと!
あらあら、シヴちゃん。ここにもまだ血がついてたね。綺麗にしてあげようね~。
……っとと、なんか、お取込み中ですか……?
(エイルに詰められているゲルズ)
エイル:どうしてフェンリルさんに、あんなことを言ったんですか。
ゲルズ:ど、どうしてと、言われましても……
エイル:イズンさんに触れるのが怖かった。それだけでしょ?
ゲルズ:な、なんでそんなこと!!
エイル:私、皆さんの戦闘をずっと見てました。
ヘズの「目」を使って。……もうヘズは死んじゃったけど。
だから分かるんです。あなたは女性が怖い。だから手を伸ばすのをためらった。
その結果、イズンさんは死んで、フェンリルさんから責められることになった。
ゲルズさん、あなたはフェンリルさんに、あんなこと言う権利無いですよ?
「逆ギレ」って言うんですよね。こういうの。
ゲルズ:うるさいなぁ……!!!
ロキ:(※ゲルズの「うるさい」に被せて)まーまーまーまーまーまーまーまー
そこら辺にしといてあげな?エイル。
ゲルズは「女性が苦手」なんだよ?それでもこうやって、エイルと会話をしようとしてくれている。
それだけで、素晴らしいことだと思わないかい?
エイル:ぁ……ロキ上官、戻られてたんですね。
ご無事で何よりです。
ゲルズ:(※しゃきっとして敬礼)はっ!ロキ上官!ご無事で何よりです!
ロキ:いやぁいやぁ。
でもこの組み合わせで残しておくのは、失策(しっさく)だったなぁ。
フレイがすぐ起きてくれると思ったんだが、……まだ目を覚まさないか。
(間)
エイル:シヴもおかえり。
エイルお姉ちゃんとぎゅーしよっか。
ロキ:刺されないように気を付けてね。
エイル:分かってます。
ゲルズ:……ったく物騒な子供だな。(※ぼそりと)
ロキ:だが上官だぞ?
ゲルズ:!?(※聞こえてたのか、という驚き)
は、はい……申し訳ありません。
(ロキ、ゲルズとエイルの間に入るように座る)
ロキ:はぁ~~。そうかぁ~。
フレイには、早く目を覚まして貰わないと、困るんだけどなぁ~。
エイル:私も、フレイさんには早く目を覚ましてほしいです。
薬は、もうないんですか?ロキ上官。
ロキ:う~ん。薬はねぇ。あるんだけどねぇ。
これ以上打つと、フレイが人間じゃなくなっちゃうんだよなあ。
ゲルズ:……。(※ドン引き)
ロキ:それはゲルズ、お前も嫌だろう?
ゲルズ:えっと、はい。そうですね……。
エイル:ウルドみたいになるっていうことですか?
私はまたフレイさんとお話ができるなら、それでもいいけどですけど……。
ゲルズ:……狂ってる。(※小声で)
ロキ:狂ってる?
ゲルズ:……!!!(※聞こえていたのか、という動揺)
ロキ:狂ってるかあ。狂ってるよねえ。僕もエイルも、一一そしてお前も。
エイル:女子供を躊躇(ためら)いなく殺せる男性は、極めて少ないと、ウルドも言っていました。
ゲルズ:……~~っっ!!(※怒り)
ロキ:……ゲルズ?その殺気は少ししまっておいてくれるかな?
そうじゃないと、お前にも薬を打たなくちゃいけなくなる。
……僕には「医師免許」なんて無くてね。
分かるかい?
ゲルズ:は……い。申し訳、ありません。(※恐怖・怯え)
ロキ:ごめんね、ゲルズ。
シグルズほど、心ある人間じゃないんだよ、僕は。
(間)
ロキ:……シヴだって。
ほ~ら。(※抱き上げる)こんなに小さいけれど、立派なサイコパスだ。
今日も国家組織の連中を、三人殺したよ。
(間)
ロキ:……もう正常だのなんだの、我儘言ってられる状況じゃない、ってことくらい、
……理解しろよ、この低能戦闘員が。
(ゲルズ、頭を床にこすりつけ土下座)
ゲルズ:っっ!!
はい!!申し訳ありません!!ロキ上官!!
大変なご無礼を働いてしまいました!!
どうか、どうかお許しください!!
ロキ:ほう。そんなに簡単に、人に土下座をするか。
……そうやって生き残ったんだろうな、お前は。
皆が死ぬ気で戦って、実際シグルズも死んだ戦闘で、お前は一人、生き延びようとしていた……。
ゲルズ:申し訳、ありませ……
ロキ:(※被せて)嫌いじゃない。嫌いじゃないな。
ゲルズ:え?
ロキ:嫌いじゃないし、むしろ好きかもしれない。
うん。最初からうちのチームに欲しかったよ。
……頭いいだろ、お前。仲良くしようじゃないか。
ゲルズ:は、はい!!ぜひ!!
ロキ:うん。握手だ握手。
(間)
エイル:ロキ上官とゲルズさん、仲良くなったんですか?
ロキ:うん。仲良くなったよエイル!
エイル:私も
ロキ:(※被せて)でもエイルとは、まだ仲良くできないかもしれない。
エイル:そうですか……。
ロキ:ごめんね、エイル。
エイル:いえ、大丈夫です。構いません。
あと、そろそろシヴのお腹が、空いているんじゃないかと。
それと、
ロキ:(※被せて)アールヴィル上官とN-フェンリルのことは聞いているよ。
二人を出迎えてくれてありがとうね、エイル。
(間)
ロキ:……ところでお前、どうして手錠をしていないんだ?
(間)
エイル:……あっ。これは。
ロキ:もう一度世界を滅亡させる気なのかい?
エイル:……ごめんなさい。
ロキ:(※被せて)ごめんなさいとかじゃなくてさ。
ねえ、まさかペンは持ってないよな?
ゲルズも見ていないかい?
ゲルズ:……見て、おりません。(※ただならぬ雰囲気に動揺しながら)
ロキ:そうか。
いい子だぁ、偉い子だぁ、エイル。
だから、もう一度手錠を掛けようなぁ?
その手が物語を紡ぐ前に。
エイル:嫌です……!!
(一瞬の間)
ロキ:……嫌、だと……?
エイル:フレイさんが目を覚ますお話を、書こうと思って、私、せっかく、手が自由になって、考えてたのに……。
ロキ:絶対に書くな!!絶対にだ!!
ッ……!!(※エイルをとらえる)
(ロキ、エイルに手錠をかける)
エイル:ううっ……。嫌、嫌です……。
ロキ:上官に逆らう気か?
エイル、お前は「核兵器」みたいなものなんだよ。
扱いは非常に危険だが、失う訳にはいかない。
……だから上官に逆らったとしても、お前を殺すわけにはいかないんだ。
……来い。エイル。折檻(せっかん)だ。
エイル:ひっ……!!
ロキ:……早く来い!!
●フェンリルとアールヴィルが休む部屋●
アールヴィル:……おかしいね。
ロキから地下施設に戻ったと、通信が入ったんだけど、一向に会いに来る気配が無い……。
フェンリル:あの……やっぱり、私から、挨拶に行ってきましょうか?
こうしてただ待っているだけ、というのは申し訳が立ちません。
アールヴィル:……いや、それはやめた方がいいね。
またゲルズと、鉢合わせするかもしれないだろう?
(ロキ、ノック後、部屋へ入ってくる・ボロボロになったエイルを連れて)
ロキ:やあ、アールヴィル上官。
挨拶が遅れてすまなかった。
エイル:……先ほどぶりです。(※折檻された後)
フェンリル:……。(※エイルを見る)
アールヴィル:……。(※同じくエイルを見る)
ロキ:そちらのお嬢さんがN-フェンリルだね。
うんうん、分かるよ。
同じ組織育ちの身だ。仲良くしよう。
フェンリル:はっ!お初にお目にかかります!
「戦闘部隊・階級Cクラス・N-フェンリル」です!
アールヴィル:おい!ロキ!エイルにいったい何したんだ!
ロキ:んん?
ああ(笑う)……おしおきですよ。
アールヴィル:いくら何でも、度が過ぎるんじゃないか!?まだ小さな女の子だぞ!?
ロキ:……アールヴィル上官。
組織の規約は、上官に逆らったら処分。そうですよね?
は物心ついたときから、そう教わってきました。
だけどこいつは殺せないんですよ。
構成員じゃなくて、「兵器」だから。
エイル:……。
ロキ:……だからその代わりです。
きちんと殺さないように、回復できるだけの、痛みを与えてるんですよ。
鎮痛剤もこれから投与(とうよ)しますしね。
これが科学者・研究者チームのやり方です。
反論ございますか?
アールヴィル:……エイルは、それでいいんだね?
エイル:……はい。
ロキ上官は、また物語を書こうとした愚かな私に手錠を掛け、いかに危険なことなのか、教えてくださいました。なので、とてもありがたく思っています。
ロキ:うん!エイル!いい子だ!よしよーし!
(ロキ、エイルの頭を撫でる)
エイル:……。
ロキ:そろそろ、フレイの寝ている部屋に戻ろうか。
少し面倒を見ておいてくれ、と頼んだけれど、ゲルズとシヴの殺し合いが始まってても、おかしくなさそうだからね。(笑う)
……それじゃ、また。アールヴィル上官。フェンリル。
「ますますのご活躍をお祈りし、ここに敬礼させて頂きます」
●部屋に二人になるフェンリルとアールヴィル●
フェンリル:アールヴィル上官……。あれって……。
アールヴィル:しっ。あまり下手なことは、言わないほうがいいよ。
構成員の発した音声は全て、階級Sクラス以上には、盗聴されているからね。
フェンリル:は、はい……でも……。
アールヴィル:暴力だね。
フェンリル:はい……。見ていられなかったです。
アールヴィル:きっと日常的に、行われているんだろう。
……ロキは少し特殊な生い立ちでね。
彼の両親は、僕らが組織を設立したときの初期メンバーで、出資者でもあったんだよ。
いい夫婦だった。とても善良な医者と看護士だったよ。
だけど善良過ぎたがゆえに、オーディンの考えに気づいた夫婦は、このことを国に告発しようとして、
フェンリル:殺されたんですね。
アールヴィル:なんとなく分かってきたかな?
僕が今こうして生きているのは、悪人であるがゆえなんだよ。
フェンリルはゲルズに、「仲間を見捨てた」と怒ったけれど、……僕もね、たくさん見捨てて来てるんだ。
だからフェンリル、君も選ばなくちゃいけない。
善を取って死ぬのか、悪を取って生きるのか。
フェンリル:……そんなの、悪を取って
アールヴィル:(※被せて)悪を取って生きることが、君の本当の心なのかな?
フェンリル:……っっ。
アールヴィル:ゲルズの言っていたことは間違いではないし、僕も後から問おうと思っていたことなんだよ。
……うん。ゲルズは土下座までして、ロキに許しを乞(こ)うたみたいだけど、君はどうするのかな?N-フェンリル……ッ!!
(アールヴィル、フェンリルへ銃口を向ける)
フェンリル:……!(息をのむ)
アールヴィル:言ってなかったけど、僕の銃の引き金は軽くてね。
まあ、昔から「気が短い」とよくオーディンにも笑われたよ。
さあどうする、N-フェンリル。考える時間は与えないぞ。
フェンリル:っっ!!うぅっ……!!……ッ!!
(フェンリル、拳銃を取り出し、アールヴィルへ発砲)
(弾は当たらず、アールヴィルの肩をかすめる)
フェンリル:あ……え、えっと……外れた……(※殺されると思い、震える)
アールヴィル:……。
フェンリル:~~~っっ!!(※うなり声、覚悟を決めてもう一度銃を構える)
アールヴィル:……あはは。
そう構えないでよ、フェンリル。合格だ。
少なくとも僕からは、だけどね。
フェンリル:……え??
アールヴィル:もしもその時が訪れたら、味方でも上官でも殺して、自分だけが生き延びることを考えるんだよ。いいね?
フェンリル:……は、はい。肝に銘じておきます。
●深夜・誰も居ない地下施設の一室●
(アールヴィルが寝たことを確認し、こっそり抜け出してきたフェンリル)
(シグルズの写真を見ながら、話しかけている)
フェンリル:……シグルズ。私は、「悪」に向いていないのかな?
そりゃあ今までたくさん人を殺したし、騙したし、悪い事……たくさんしてきた。
でも、それは……シグルズの命令があったからであって、私の意思じゃなかったのかもしれない。
……今日ね、ゲルズさんに言われちゃったの。
私はずっと、ゲルズさんがイズンを見捨てたことが許せなくて、だけどそれは、ゲルズさんからしたら、ううん、「悪」の観点から見たら、当たり前のことだった。
今日はね、アールヴィル上官にも銃を向けられて、とっても怖かったの。
アールヴィル上官だって、優しく見えるけど、ちゃんと悪の組織の人間なんだって、私、実感させられちゃった。
ねえ……これから私、本当に、ちゃんとやっていけるのかな?
(フェンリルがいる部屋にロキが入ってくる)
ロキ:フェンリルじゃないか。こんばんは。
こんな誰も居ない部屋でどうしたんだい?
フェンリル:はっ!ロキ上官!
「夜も更けて参りましたが、ご機嫌はいかがでしょうか?」
ロキ:よくよく教育されているね。さすがはシグルズだ。
フェンリル:……。
ロキ:しかし、こんな遅くにこんな場所で、一体どうしたんだい?眠れないとか?……シグルズが恋しい?
フェンリル:……いえ。
ロキ:あ!じゃああれだ、アールヴィル上官と同室が嫌だったとか!
フェンリル:ベッドは別ですので、問題ありません。
ロキ:じゃああれだ、メランコリーなんだねぇ。フェンリルは。
フェンリル:メランコリー……。
ロキ:僕もよくなるよ。
あ、今起きてるのは、シヴを寝かしつけるのに、少々手間取ってしまったからなんだけどね?
フェンリル:そう、だったんですか。大変ですね。
でも何故、ロキ上官がシヴ上官のお世話を?
ロキ:……大切な人にね、頼まれたんだよ。
フェンリル:大切な人に……。
ロキ:僕は物心ついたときから、組織育ちでさ?
両親は居たんだけど、その、死んじゃってさ。
……そこから僕を育ててくれた人が、居たんだ。
フェンリル:私も、5歳のときからそうでした。
ロキ:なんかさー。こう、ずっと組織に居るとさ、分からなくなってくるよね。
フェンリル:!!
ロキ:自分の存在意義とかさぁ。
ほんとにこれで合ってんのかなぁとかさ~。
フェンリル:わ、分かります!!私もちょうど、同じようなこと考えてました!!
ロキ:……それで眠れなくなったり、しちゃうよね。
フェンリル:まさに今がそれです……。
ロキ:表社会の常識なんて分からない、こっちだけが「常識」の僕らには、何が正しくて何が間違ってるのかも、分からないんだよね。
フェンリル:ロキ上官が仰ってること、とても共感できます!
(間)
ロキ:……だったら、フェンリル、今夜は僕に付き合ってくれるかい?
フェンリル:え。そ、それって……。
ロキ:同じ組織育ち仲間じゃないか。それにフェンリルは僕の言葉に共感してくれた。な?いいだろ?
(フェンリルに詰め寄るロキ)
フェンリル:い、いや……!ロキ上官にも、大切な人がいらっしゃられたのでは、ないのですか……!
ロキ:ああ、居たよ。でも死んだ。フェンリルが好きだったシグルズももう死んだんだ。
だからいいだろう?気の合う者同士。同じ境遇のもの同士。
(フェンリル、ぽろぽろと涙をこぼす)
ロキ:え。え~~??ここで泣いちゃう??
フェンリル:ロキ上官は、とてもっ、可哀想な方ですっ。(※泣きながら)
ロキ:ちょっとちょっと、待ってよ~~。
フェンリル:駄目ですよっ!投げやりになっちゃ!駄目です!
もっと自分を強く持たないと……壊れちゃいます。(※泣きながら)
ロキ:……フェンリル。
お前自身こそが、壊れかけているというのに、その精神状態で……僕に、そんな言葉を掛けるのか。
フェンリル:わ、私はっ……壊れてなんかっ……!まだまだ生きなきゃっ……!戦わなきゃ……!(※泣きながら)
ロキ:僕の研究室に来なさい。軽めの精神安定剤をあげよう。
フェンリル:えっ、そんな!
ロキ:安心してくれ。僕も飲んでいるものだ。
●翌朝・フレイの眠っている部屋●
(部屋には椅子に座るゲルズと、目を覚まさないフレイしかいない)
ゲルズ:ったく、なんたって目覚まさねえんだよ……。
あんだけ図太く生き残ってきたお前が……。
いや、今も「生きて」はいるのかもしれんが……。
なあ、命に別状はねえんだろ?!目を覚まさねぇ方がおかしいって、ロキ上官も言ってたぞ!?
なんでだよ……。このままじゃ本当に後味悪ぃじゃねーか。
(間)
ゲルズ:女と子供を殺すことを、初めて肯定してくれたのはお前だったな、フレイ。
あれから何年経ったっけよ。まだ数年、数えるほどだよなあ。
……あれからお前も人を殺したし、俺も数え切れねーほど、この手で人を殺(あや)めた。
一一今更戻れねんだよ。
なあ、フレイ。頼む。目を覚ましてくれ……!
(部屋にアールヴィルが入ってくる)
アールヴィル:おはよう。ゲルズ。随分と熱心にフレイの看病をしているんだね。
ゲルズ:はっ!アールヴィル上官!
「おはようございます!本日も良き一日を過ごされるよう、心からお祈りしております!」
アールヴィル:大変真面目でけっこうけっこう。
しかし君、男性相手ならびっくりするくらい普通に話せるんだね。
ゲルズ:ええ、まあ、はい……。
自分は女性が苦手で……あとは子供も苦手で。
アールヴィル:なかなか今の状況は、君にとってつらいものじゃあないのかな?
ゲルズ:正直に言ってしまうと、そうなりますね……。
アールヴィル:ロキの下につくのかい?
ゲルズ:今のところは、そう考えています。
アールヴィル:……ふぅん。
それは同時に、エイルやシヴの相手もすることになると思うけど、大丈夫なのかな?
ゲルズ:なんとも……言えません。
アールヴィル:恐怖症やトラウマというのは、そう簡単に治るものでは無いんだよ、ゲルズ。
無理する必要はないと、僕は思うけどね。
ゲルズ:……でも、降りたら殺される。それがこの組織のルールですよね。
アールヴィル:ははっ。よく分かっているじゃあないか。
物わかりのいい、いや、もとい、頭の回転が速い構成員は嫌いじゃないよ。
……しかし、ロキには気を付けろ。
表の世界から来た君なら尚更だが、あいつには、一般常識は通用しないぞ。
そしてそれを彼も、おかしなことだとは思っていない。
エイルもシヴも、そんな彼の元で育っている。
……困ったら、いつでも相談しに来るといい。
ゲルズ:はい。ありがとうございます。アールヴィル上官。
アールヴィル:君は頭がいいが、少々流されやすいきらいがある。自分でも気を付けたまえ。
(アールヴィルにオーディンから通信が入る)
アールヴィル:おっと。オーディンから通信だ。
悪いね。今日はこの辺でお暇させていただく。
また話そうじゃないか。ゲルズ。
ゲルズ:はい!ぜひ!
(間)
ゲルズ:……あの、一つだけお尋ねしたいのですが、
アールヴィル:なんだい?なんでも、言ってごらん。
ゲルズ:アールヴィル上官、貴方からは殺気も悪意も微塵も感じられませんでした。
……あなたは本当に、「悪」なのですか?
アールヴィル:はっ、(※鼻で笑うイメージ)なんだ、そんなことか。
僕はね、ゲルズ。訳あって十二歳の頃からこの組織に属しているんだ。
そして、今まで殺されずに十二年間も生き延びている。
……これだけで、頭のいい君なら分かるだろう?
僕は「悪」の人間だよ。
それこそオーディンと同じレベルでね。
●ロキの研究室●
(エイル・シヴ・フェンリル・ロキ)
(シヴをあやすフェンリル)
フェンリル:……シヴ上官?よーしよし。
ロキ:5歳の女児に対しても、上官と言うのかフェンリルは、面白いね(笑う)
フェンリル:いや、だって、上官ですもの。当たり前です。
……それに、まだ5歳って聞いて、どうしても自分と重ねて見てしまうといいますか。
ロキ:まあ彼女はサイコパスなんだけどね。刺されないように気をつけなよ。
フェンリル:は、はぁい……(苦笑)
エイル:フェンリルさんは、可愛らしいお方ですね。
フェンリル:え!?
エイル上官、急にどうされたのですか!?
エイル:表情がころころ変わります。見ていて楽しいです。
フェンリル:えーっと……?
これは、褒められているのでしょうか?
エイル:褒めています。私には無いものですから。
フェンリル:……でも、エイル上官?
貴女(あなた)も、とても可愛らしいですよ。
まるでお人形のようで。異国の出身なのでしたっけ?
エイル:……お人形。
……お人形は、確かに可愛らしいですね。
褒めて頂き、ありがとうございます。
……フェンリルさん。
私は、……異国の出身ですよ。
ロキ:エイルはね、祖国を自身の能力で壊滅させてから、この組織へ来たんだ。
エイル:……。
フェンリル:そう、でしたか……。すみません。踏み入ったことを。
●地下通路●
(対峙するアールヴィルとオーディン)
(息も絶え絶えなアールヴィル)
アールヴィル:ぐはっ……!!
オーディン……君はっ……!
僕までっ……排除しようとするのか……。
ハハッ、新世界には、必要ない、と……。
……そうか。分かったよ。君の考えは理解した。
長年一緒にやってきたんだ。
……だから、最後くらい、足掻かせてもらうよっ!!(※台詞の最後に向けて力を込めて)
(ロキの研究室から、元の部屋へと戻ったフェンリル)
フェンリル:あれ、アールヴィル上官いないや……。どこに行ったんだろう。
まあいっか。お忙しい方だし、そのうち戻ってくるでしょ!
それにしても、ロキ上官から貰った精神安定剤、すっごく良く効くなあ。
……さすがはロキ上官。……組織育ち仲間、か。
まあ、たしかに、私達は、外の世界を知らない者同士、なのかな。
(扉を開けて勢いよく入ってくるゲルズ)
(ゲルズは酷く焦っている・慌てている)
ゲルズ:おいフェンリル!!ロキから貰った薬を飲んだか!?
フェンリル:……え?え?ゲルズさん、急に入ってこないでください!
ゲルズ:急ぎだ!飲んだのか!?飲んでないのか!?
フェンリル:いや、まあ、飲んだと言っても軽めの精神安定剤ですけど……
ゲルズ:(※被せて)今すぐ吐き出せ!!駄目だあれは!!
フェンリル:え?え?ちょっと状況が、読めないんですけど……
ゲルズ:あれは洗脳をするための薬だ!
あいつは!ロキは!洗脳技術を持ってる!
フェンリル:ちょっと!そんなこと、ここで大声で言ったら……!!
ゲルズ:……ああ。盗聴されているんだろう?!知ってる!!俺はすぐに殺されるだろうなあ!
……すぐに目を覚ますと言われていたフレイが、今後一生目を覚まさねえことも、俺は知った!!
フェンリル:え……そ、そんな……。
ゲルズ:何もかも騙されていたんだよ!
フェンリル、お前だけでも生き残れ!
……あと、最後にこれだけは伝えとくぞ。
地下通路で、アールヴィル上官とボスが何やら言い争っていた。
アールヴィル上官が、危ねぇかもしれねぇ。
急げ!!ロキがここへ来る前に!!
フェンリル:……ッッ!!分かった!!
ありがとう、ゲルズさん!
私、あなたのこと嫌いだったけど、意外といい奴ね!……それじゃあ、行くわ!!
(フェンリル、その場から去る)
ゲルズ:ああ、それでいい。それで……。
(ゲルズ、周囲を警戒してからフレイの居る部屋へ向かう)
ゲルズ:……まだ猶予は、あるみてえだな。
おい、入るぞ。
(フレイの寝ている部屋の扉を開ける)
ゲルズ:……最期だからさ、殺させてくれよ、フレイ。
意味わかんねぇ薬ばっかり打たれて、
本来ならすぐ回復するはずだったのによお。
ロキの野郎……っ!
(寝たきりのフレイの首を絞めるゲルズ)
ゲルズ:思えば高校生の頃も、こうして首を絞め合ったよなあ。
……同級生ってのは、呪いみてえなモンだなあ。ははっ。
俺さ、たぶんお前のこと好きだったよ。
歪んでるにも程があるけどな。
……ありがとう、フレイ。じゃあな。
(ロキが部屋の中まで侵入し、ゲルズに銃を突きつけている)
ロキ:気は済んだかな?
「戦闘部隊・階級Cクラス・T-ゲルズ」
今からお前を、上官に逆らった罪で、処分する。
ゲルズ:……あぁ。心残りはねェ。
ロキ:残念だよ。
お前には、いい右腕になって貰えると思ったんだがね。
エイル:私も残念です。
ゲルズさん、もっと仲良くお話したかったです。
ゲルズ:ははっ。……クソ喰らえだ。
(銃声)
(走っているフェンリル)
(地下通路へ辿り着く)
フェンリル:アールヴィル上官!!アールヴィル上官!!(※走っている)
(出血がひどいアールヴィル)
フェンリル:アールヴィル上官!!しっかり!!
アールヴィル:フェン……リル……なぜ……来た……(※血を吐く演技ができればここで、できなければ咳き込む演技で)
フェンリル:……ボス、これは一体、どういうことですか……??
新世界の創造計画に、アールヴィル上官がいらないって、どういうことなんですか!?
今までずっと、一緒にやってきたんじゃないんですか!?
(オーディンの言葉を聞いたフェンリル)
フェンリル:……ごめんなさい。
私もう、ボスの考えについていけません。
……最後に、一矢(いっし)報いさせて頂きます。
(フェンリル、ナイフを両手で持ってオーディンに切りかかる)
フェンリル:……ッッ!!
うおおりゃあああああああ!!!
(数時間後)
ロキ:なるほど。ボス。これで邪魔者は全員排除されたと。
……っっあ~~!駄目だよシヴちゃん。(※声音を変えて)
よしよし、こっちで大人しくできるかな?
エイル:……ボス、私の次の仕事を教えてください。
ロキ:……大変失礼しました。お話の続きをどうぞ。
(間)
エイル:……新世界、創造、計画……。
ロキ:かしこまりました。
U-ウルドももうじき、完全に直ります。
ボスの仰る、「新世界創造計画」。
必ず成功させてみせましょう。
●END●
次のお話→
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