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aimer-ensemble(エメアンサンブル)【1:1:0】【ファンタジー】

『aimer-ensemble(エメアンサンブル)』
作・monet

所要時間:約20分

●あらすじ●

一一ああ、僕の可愛い可愛い‪‪‪‪‪✕‬‪‪✕‬‪‪✕‬‪‪✕‬。

幼い頃の記憶が無い少女・ブロンシュと、白くてふわふわな喋る不思議な鳥・オワゾーとのファンタジー。

ブロンシュ/♀/ブロンシュ・ホンホン。シャン家に仕えるメイド。メイドとしては優秀だが、どこかふわふわしていて不思議な雰囲気がある。その為、メイド仲間からは浮いた存在。くせっ毛。

オワゾー/♂/オワゾー。ブロンシュと会話が出来る鳥。二人の会話は二人にしか聞こえていない。白くてふわふわしている。

当主/♂/シャン家の現当主。オワゾーと兼ね役。そこそこの年齢感と威圧感が出せれば大丈夫です。


●ここから本編です。●


 ●早朝。●

 ●シャン家の屋敷内。ブロンシュの住むメイド寮。●

オワゾー:(※コンコン、と窓を叩く)

ブロンシュ:(※音に気づいて目覚める)ん、んん……。あれ?オワゾー…?

 (身体を起こし、窓を開けるブロンシュ。)

ブロンシュ:よいしょ…っと。

 (窓が開くとオワゾーが話しかける。)

オワゾー:おはよう。ブロンシュ。今日もいい朝だよ。

ブロンシュ:(※あくびをして)おはよう。オワゾー。 確かに良く晴れてていい朝……って、今何時?

オワゾー:6時50分。朝礼まで後10分さ。

ブロンシュ:嘘でしょ!?何でもっと早く起こしてくれなかったのー!オワゾーの馬鹿!はー!また怒られちゃう怒られちゃう!!

オワゾー:ハハハッ。ブロンシュは今日も元気そうだね。

ブロンシュ:(※少し遠くで)あ~~っ!リボンが見当たらない~~っ!

 (間)

ブロンシュ:(M)私の名前はブロンシュ・ホンホン。ホンホン家は代々シャン家に仕えているの。だから私のお母さんもシャン家のメイドらしい。

らしい…というのも、私は5歳より前の記憶を持っていない。派手な馬車の事故に巻き込まれて、生死の境を彷徨ったのだという。

気づいた時にはもうシャン家のお屋敷に居た。記憶にある限り、ここから出たことは無い。まるで鳥籠の鳥……なんちゃって。

それに記憶を失くしてからは、お母さんとも会っていない。同じお屋敷で働いているはずなのに。そしてお父さんも分からない。

でもそんなこと、私にとっては他人事のようにどうでもいい。別に記憶が無いからって不幸な訳じゃないし、「可哀想だ」と言われるのも好きじゃない。

 (間)

オワゾー:ブロンシュ。ほら、あと2分だよ。

ブロンシュ:分かってる…よっ。(※髪の毛を結び上げる)…っと。…よし、髪の毛はこんな感じかな。

オワゾー:エプロンが曲がったままだよ。ブロンシュ。

ブロンシュ:わわ!本当だ!ありがとう。オワゾー。

オワゾー:どういたしまして。

 (間)

ブロンシュ:(M)私に話しかけてくるこの鳥は、「オワゾー」という名前で、白くてふわふわしている。

オワゾーの声が聞こえるようになったのは、このお屋敷に来てから。だから、やっぱり事故の後遺症が関係しているのかもしれない…と、お医者様は言っていた。

詳しい事は、誰にも分からないんだって。それでもオワゾーは私の大切な話し相手でお友達。

――だけど、オワゾーって、いつから私の傍に居たんだっけ……?

 (間)

オワゾー:ブロンシュ。あと1分。

ブロンシュ:うん!もう大丈夫。……時間見ててくれてありがとうね、オワゾー。行ってきます。

オワゾー:礼には及ばないさ。…今日もブロンシュはかわいいね。

ブロンシュ:もう!またそんなこと言って!

オワゾー:ハハハッ。ごめんごめん。引き止めてしまったね。……行ってらっしゃい、ブロンシュ。今日もお仕事頑張るんだよ。

ブロンシュ:それじゃあ、また後で!(※立ち去る)

オワゾー:(※ブロンシュが居なくなるのを待ってから)……ああ、僕の可愛い可愛いブロンシュ。

 (間)

 ●仕事中のブロンシュ。●

ブロンシュ:え~っと、掃き掃除は上から上から……っと。

 (間)

ブロンシュ:(M)約一か月前。私に仕事を教えてくれたメイド長と、シャン家次期当主のアンドレ様が失踪した。そこからはもうぐちゃぐちゃだ。

船旅に出ているクーレお嬢様を連れ戻す話も出たけれど、そもそも今どこに居るか分からないのだから不可能…ということで、話は纏まった。

今、シャン家のメイド達を纏めているのは、「不思議ちゃん」こと私ブロンシュと、「泣き虫のフリュー」。……勿論上手くいっている筈もなく。

 (間)

ブロンシュ:えっと…フリュー?また泣いてるの?今度はどうしたの?…え?ティーカップを割っちゃったの?……うーん。私も謝りに行くから、とりあえず泣き止んでよ。

 (間)

ブロンシュ:(※独り言)はあ……。どうなっちゃうのかなあ、これから。

 (間)

ブロンシュ:(M)シャン家は大変な状況だったけれど、私はそこまで重たく考えていなかった。だって私はただの一メイド。淡々と仕事をこなすだけでいい。

そうしてお給料を貰って、ただただ生活をこなしていくの。そう。大きな幸せなんて望まない。私には「平凡」があればいい。

だから今の暮らしはとても気に入っていたし、…記憶には無いけれど、お母さんみたいに大人になるまでずっとシャン家のメイドで居るつもり。

だからシャン家のお家(いえ)問題なんて私には全く関係の無い話。

――そう。そのはずだったのだ。

 ●シャン家当主の部屋。●

 ●呼び出されたブロンシュ。●

ブロンシュ:失礼いたします。

あの……旦那様? 私なんぞに何か御用ですか……?

当主:ブロンシュ。来たか。 ソファに座ってくれ。

ブロンシュ:…? は、はい。失礼します。

当主:これを見てくれ。ブロンシュ。

 (当主は一枚の紙をブロンシュに渡す。)

ブロンシュ:え? ……はい。「出生証明書」……?

当主:それを見て分かる通り、君は私と血の繋がった娘なんだよ。

ブロンシュ:…………え?

当主:(※ため息)この手段だけは使いたくなかったが、もうどうにもならないのでね。

ブロンシュ:(M)その時、私の中で何かが繋がったのだ。

当主:(※聞こえるように独り言)妾(めかけ)との子を次期当主に据えるなど……。

ブロンシュ:(M)私のお母さんは、旦那様と――。

当主:(※聞こえるように独り言)……みっともない。本当にみっともない。

ブロンシュ:(M)私の出自は、私のお父さんは――。

当主:当然だが、君に拒否権は無いのでね。ブロンシュ。……まずはその醜い縮れ毛から整えなさい。

ブロンシュ:(M)私の中で、繋がった「何か」が弾けた。

当主:(※聞こえるように独り言)まったくどいつもこいつも……。

ブロンシュ:(M)私が今日まで、このシャン家のお屋敷で生きてきた理由。

当主:君だけが頼りの綱だぞ、ブロンシュ。

ブロンシュ:……。

当主:ブロンシュ。「ウィ(※イエスの意)」と言いなさい。

ブロンシュ:っ……。

当主:ブロンシュ!言うことを聞きなさい!

ブロンシュ:だ、……(※旦那様、と言おうとする)

当主:私は「ウィ」以外の言葉は許さないぞ。

ブロンシュ:(※荒い息)

当主:ブロンシュ。(※圧をかける)

ブロンシュ:~~~っっ!!!(※立ち上がり、振り返り、走って逃げだす)

当主:っっクソ!!おい!!あいつを捕まえろ!!何が何でもだ!!


 ●シャン家の庭園、植物が生い茂る奥深く。●

 ●走って逃げてきて、息が荒いブロンシュ。やり場のない感情。●

ブロンシュ:っっ……、や、あ、あああああああ!!!なんでっ、なんで…っ!あ、ああ、、うわああああ!!!

(ブロンシュ、泣き演技しばらく。)

 ●その後、どこからともなくオワゾーが現れる。●

オワゾー:おやおや、どうしたんだい?ブロンシュ。

ブロンシュ:(※泣いている)

オワゾー:何か悲しいことでもあったのかな?

ブロンシュ:(※泣いている)

オワゾー:また仕事で失敗して怒られた?

ブロンシュ:(※泣いている)

 (間)

ブロンシュ:(※少しだけ落ち着いて)……ねえ、オワゾー。

オワゾー:うん。

ブロンシュ:私、自分が何者なのか、分かっちゃった。

オワゾー:うん。

ブロンシュ:でも、どうすればいいのか、分からないの。

オワゾー:そっか。

ブロンシュ:分からなくて、分からなくなっちゃって、分かったはずなのに、……何でこんなに分からないんだろう。

オワゾー:ブロンシュ……。

ブロンシュ:分かってしまって、こんなに苦しいのなら、分からないままの方が良かったな。

オワゾー:本当にそうかい?

ブロンシュ:うん。……だって、こんなのあんまりだよ。

 (間)

ブロンシュ:……オワゾー。あなたは何者なの?

オワゾー:……分からないままの方が、良いんじゃなかったのかい?

ブロンシュ:それは……オワゾーが何者か分かってしまったら、私はまた悲しくなるっていうことなの……?

 (間)

ブロンシュ:……答えてよ!オワゾー!!

 (間)

オワゾー:……僕は、ただの鳥さ。君の言う通り、白くてふわふわの鳥さ。

 (間)

ブロンシュ:オワゾーは、私の事……知ってたの?

オワゾー:……僕は、ずっとずっと前から、ブロンシュ、君の事を知ってたよ。

ブロンシュ:ずっとずっと前……。

オワゾー:そう。ずっとずっと前から。……君の事を見ていた。

ブロンシュ:(※何とも形容し難い感情に、何も言えない)

オワゾー:無邪気で元気な女の子だったね。君は。レースのついた白いワンピースがお気に入りだった。カスミ草の髪飾りを可愛い巻き毛に刺して、その日は出掛けたんだ。

君は上機嫌でスキップをしていた。何と言ったって新発売のドールを買ってもらう約束があったのだからね。そう、その日は君の――5歳の誕生日だった。

ブロンシュ:……5歳の……誕生日……?

待って、オワゾー。あなたは一体、なんの話をしているの!?

オワゾー:……酷い事故だった。ブロンシュは何も悪くない。暴走した馬車が道に突っ込んできて――

ブロンシュ:待って!オワゾー!

オワゾー:……なんだい?ブロンシュ。

ブロンシュ:事故の事……知ってるの?

オワゾー:君の事なら何でも知ってるよ。

ブロンシュ:どうして?どうして知ってるの?

オワゾー:……ずっと見てきたからね。

ブロンシュ:違う!そういうことじゃない!

オワゾー:うん。

ブロンシュ:あなたは――

 (間)

ブロンシュ:……私の、知ってる、人間……なの?

オワゾー:僕は人間じゃ無いよ。

ブロンシュ:「私が知ってる」ってことは、否定しないの?

オワゾー:僕はただの鳥さ。白くてふわふわの。

ブロンシュ:分からない、、はっきりは思い出せないの。でも確かに、もやがかかった記憶の傍には、いつも誰かが居た。

……それがオワゾー、あなたなの?

オワゾー:……どうだろうね。

ブロンシュ:もう、頭の中も、心の中も、ぐちゃぐちゃだよ。

オワゾー:――ごめんね。

 (間)

オワゾー:(M)ごめんね。ブロンシュ。でも僕は君に、本当の事を言う訳にはいかないんだよ。

君の母親は酷い人だったね。滅多に家に帰ってくることなんて無かった。シャン家のお屋敷でメイドの仕事をしながら、夜は酒場で男遊び三昧(ざんまい)。

そうして生まれたのが僕だった。父親はどこの誰かも分からない。ロクにご飯も食べさせて貰えなかった。

毎日毎日、仕事や男関係のストレスで当たられた。「邪魔だ」とよく吐き捨てるように言われたけれど、しっかりサンドバッグにはされていたね。

殴られて、蹴られて、その痛みにも慣れてきた頃、母親はいつになく嬉しそうに帰ってきた。

「当主様の子供を身籠った」と。僕は幼かったけれど、それがどういう意味かは分かっていた。

結局この事はシャン家の夫人にバレてしまい、僕らの母親はメイドをクビになった。そして、お腹にシャン家当主との子供を抱えたまま、娼館(しょうかん)で働き始めた。

やがて産まれたのがブロンシュだ。――僕の、父親違いの、たった一人の妹。

 (間)

オワゾー:ブロンシュ……。

ブロンシュ:なあに?

オワゾー:(M)僕らは二人でずっと一緒だった。母親の帰ってこない家で、一つのパンをちぎりながら分けて食べたっけな。

そしてほんの少しの時が経って、僕も働けるようになった。新聞配達の仕事だ。大変だったけど、でもこの給料でブロンシュにプレゼントを買ってあげようと思ったんだ。

そう。ブロンシュの5歳の誕生日が近かったから――。

 (間)

オワゾー:(M)馬車の事故から君を守って死んでも、それでも離れたくないと願った存在。人ならざるものになってまで、見守りたいと思った存在。

……ああ。新発売のドール。買ってあげたかったな。喜ぶ顔が見たかった。……できることなら今でも人間として、君の隣に立っていたかったよ。ブロンシュ。

 (間)

オワゾー:……君なら、やれるよ。大丈夫。シャン家を継いだら、もっといい暮らしができるはずさ。

ブロンシュ:でも!私は!……妾(めかけ)の子、なんだよ……? 奥様からあれだけ嫌われていた理由、ようやく分かった。私が鬱陶しかったんだ……。

もしこんな私がシャン家を継いだりしたら、もっといろんな人から嫌な目で見られるに決まってる……。

オワゾー:じゃあ逃げるかい?

ブロンシュ:……逃げきれないよ。きっとすぐ見つかっちゃう。

オワゾー:ブロンシュ。君が逃げたいというのなら、僕は全力で協力するよ。

ブロンシュ:……。

オワゾー:でも、シャン家を継ぐことを決めたとしても、僕は全力で応援する。

ブロンシュ:……どうして? どうしてあなたは、私にそんなに優しくしてくれるの?

オワゾー:僕はいつだってブロンシュの味方だからね。

ブロンシュ:私はその理由を聞いているの!

オワゾー:……理由が必要かい?

ブロンシュ:……。……でも、納得はしたい。

 (間)

ブロンシュ:(M)私がそう言うと、オワゾーは彼自身の白くてふわふわな羽で、とても優しく私を抱きしめた。

 (間)

オワゾー:……ブロンシュ。

ブロンシュ:オワ、ゾー……。

オワゾー:ただの鳥の僕には、君を思いっきり抱きしめてあげることは出来ない。……だから、これじゃ駄目かい?

 (ブロンシュは納得したような笑みを浮かべる。)

ブロンシュ:……オワゾー!ううん!ううん!駄目じゃない!……私からも、ぎゅってしていい?

オワゾー:もちろんさ。嬉しいよ。

ブロンシュ:オワゾー!

 (ブロンシュはオワゾーを思いっきり抱きしめる。)

ブロンシュ:……ふふっ。オワゾー。あなたは相変わらず、白くてふわふわね。心地がいいわ。

……そしてちゃんと、あったかい。

オワゾー:うん。あったかいね。

ブロンシュ:(※涙声で)……あったかいよぉ、オワゾー……。

 (間)

オワゾー:ふふふ。……見て。ブロンシュの好きなカスミ草が、沢山咲いているよ。

ブロンシュ:本当だ。もうそんな季節なんだね。……へへ。可愛い。

オワゾー:君に一番よく似合う花だ。

ブロンシュ:えへへ。ありがとう。…白くてふわふわで……沢山咲いてると、まるでオワゾーみたい。(※微笑む)

オワゾー:そうかい?それは光栄だね。

ブロンシュ:うん。

オワゾー:カスミ草の花言葉は、知っているかい?ブロンシュ。

ブロンシュ:……うーん。分からない。なんていう意味があるの?

オワゾー:「無垢の愛」、「感謝」、「幸福」だよ。

ブロンシュ:凄い…!私が今、オワゾーに思っていることとまったく同じなんだもの!

オワゾー:そうかい?嬉しいね。

ブロンシュ:うん!オワゾー、ありがとう。あなたが居てくれるから、私今とっても幸せよ。

――「愛してる」。


 (間)


 ●場面転換。●

ブロンシュ:(M)え?結局どうしたのか、って? それを聞くのは野暮じゃない?

……私は今日も生きている。白くてふわふわの彼――オワゾーも傍に居てくれる。

オワゾー。彼が誰なのかは分からないまま。でも、私の事を思ってくれているのは確かだ。

それだけで。それだけでいいんだ。それが――私の幸せなんだから。

 (間)

ブロンシュ:ねえオワゾー!またぎゅーってさせて!

オワゾー:……こらこら。そんなに強く抱きしめたら、また羽が散らばっちゃうだろう?

 (二人で笑い合って終了。(※アドリブも可。))


●END●

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