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chinaの五にんきょうだい

   昨日の句会のあと、宗香さんが数年前に亡くなられたことを聞く。詩人の宗左近氏の奥様、いや、奥様という言い方は嫌いな方だった。宗のことを、主人、なんて言うのいやじゃない、なんて言ったらいいかしらね、ハズバンド、なんか落ち着かないわね、と。

   見当はずれな、下衆な勘ぐりをされることも多いのだが、私はなぜか香さんに呼ばれていくことも多かった。買い物の手伝いや、食卓の準備など、もともと人を手伝うのが好きな自分は、及ばないけれど言われたように動く。軽井沢に借りた別荘にいらっしゃい、と他の俳人の方と共に呼んで頂いたときには、料理上手な香さんに、ジャムの美味しい煮方を教わったり、ガスレンジの傍らで香さんの入れたてのコーヒーの御相伴にあずかったりもした。と、あの別荘地の雨の朝の景色を思い出す。

   宗左近氏を中心とした句会、その仲間たちで奈良のお水取りを見物に行ったときだったか、香さんがその地の骨董店でこの茶碗を見つけて、これ買おうかな、コーヒー飲むのに良さそうじゃない、でも10個セットはいらないな、私買うからあなたに5個あげるわ、と仰ったのだった。いえそれは申し訳ないので払います、と慌てる私に、いいからもらってよ、お揃いもいいでしょう、とくださった。

   あの、左岸と呼ばれていた、市川の、窓いっぱいに夕日の見えるマンションに並んでいた左近氏の骨董たちはその後どうなったのだろう、どこかに落ち着いているのだろうか。そして、この、私の手元にある、幕末期くらいにオランダのデルフト陶器を模して日本で輸出用に作られたらしい、というこの素朴な湯呑み茶碗の、あと五にんのchinaのきょうだいはどこでどうしているだろうか。コーヒーなど入れてもらって、元気にしてるといいのだけど。

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