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WHO AM I

暗い廊下、マネキンがあった。
かっこよくヘアスタイルを決めて黒塗りされて、
ところどころついたビーズは剥がれかけた人魚の鱗みたいで、どこかアイドルみたいだった。


私はあまり香取慎吾さんと言う人を知らない。
慎吾ちゃんと呼んでいて、番組を見ていたことがあって、好きな曲が何曲かあるぐらい。
本当になんの情報も入れることなく、彼の作品展を見に行った。
絵を描くことすら、大人になってから知った。


慎吾ちゃんの絵は、ぱっと見すごく躍動的で爆発的だったけどずっと違和感があった。
闇のパート。真っ暗で、ちょっとお菓子の家みたいな廊下に爛々と並ぶ作品。
絵を見て、題名を見て、これはなんだろう、あれはなんだろうって眺める。
正直なんか怖かった。
1人で行ったけど、1人で行ったのを後悔した。ちょっぴり。 

たくさんの色を抑圧してるみたいな絵。
泣いている人。
目のない笑顔が沢山いて、誰かを見てる。
助けるように伸びた手と、囲む人。

この絵の人は、沢山の感情に溢れていて、蓋をしてるようだな。
助けるように伸びた4本の手は、どれぐらい救いなんだろう。
色に溢れた顔のない人。なにか着飾った下を考えてみたりして。
慎吾ちゃんの絵の主人公はなんだかすぐ潰れてしまいそうだった。
外の力が強く見えて、主人公なんてすぐ潰しちゃいそうって。


しんどいなと思った。
私はここ数年アイドルを応援しているけれど、自分の推しがもし個展を開いたとして、こういった作品を見たら「すごいね」なんて簡単な言葉で終えてしまえないなとか思うと、なんか苦しくてしんどくなった。


クロウサギに呼ばれてカーテンをくぐったら、光のパートだった。
ここで一番好きだったのは慎吾ちゃんのコラージュ。
地球のカッポル、という名前だった気がする。
ちょっぴり皮肉にも見えそうなそれが好きだった。
題名のついてる作品が増えた。
使う色が増えた。


WHO AM Iがあった。
同じ絵に何枚も何枚もすごい数の色を塗ってる。
あんなにあるのに目が描かれてるものは全部ずっと戯けているように思った。
それを見て漠然と、きっと私はその一面しか見たことがないし、と言う気持ちになった。


個展に入ってからずっと飲み込まれたみたいに色が洪水を起こしていたけど、感情は蓋の先で見え隠れする。
多分、最初に見た時の違和感はこれなんだろうと思った。
色と一緒に感情が洪水のように溢れて流されるのが怖いと思った。
けど、見え隠れするそれを色の洪水の先に見つけてしまうほうがよっぽど怖かった。


わたしは慎吾ちゃんのことを何も知らない。
正直すごくしんどくなって、この作品たちにのめり込むのがこわかった。
それなのに「この絵はなんだろう」と探すのがやめられなかった。
子供の頃、おもちゃ箱に腕を突っ込んでかき混ぜながら何かないか探した。
それと同じような感覚。
彼の個展は面白かった。


真っ白な部屋、マネキンがあった。
かっこよくヘアスタイルが決まったマネキンは沢山の色で飾られて、ビーズがキラキラ彩って、アイドルみたいだった。
いつも見ている、私の好きな。