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パパはわかってくれない シナリオ

〇 のどかな風景
歩いているさつきと康男。ふたりの間にある微妙な距離。
康男 「じゃあな、また来るからな」
さつき「そっ」
康男 「あ、お金今度持ってくるから。補助金が入ったら払えるから」
さつき「そっか」
康男 「ちゃんと払うから。安心しろ、な」
どうやら養育費の支払いが滞っているようである。
康男 「あ、そうだ。マスク、マスク」
人はいいが不器用なタイプのようである。
さつきはどこ吹く風。
さつき「ねぇ、パパ」
康男 「パパはよしなさい。パパ活と勘違いされるだろ」
さつき「(ウザ)そういうのママに直接言って」
康男 「…母さんは、ほら、最近なんか避けられてるんだよな」
さつき「ちゃんと説明しないからだよ」
康男 「…」
さつき「都合が悪くなると黙るよね」
康男 「…」
さつき「そういうとこだよ」
康男 「…あ、そうだ。今度お前名義の定期預金作るから。ほら、将来のこととか考えたらさ」
さつき「勝手に決めんなよ」
康男 「(聞いてない)絶対あった方がいいだろ。だから今度書類持っていくから、実印用意しといて。お母さんに聞けばわかるだろ」
さつき「そういうのいいから」
康男 「なに言ってるんだ。お金はあった方がいいんだから。将来絶対。普通預金だとお前使っちゃうから(決めつけ)簡単には取り出せない定期な」
さつき「(うんざり)ほんとムリ」
康男 「…なぁ、ずっと気になってたんだけど」
さつき「なに?」
康男 「お父さんに向かって、そういう態度はないんじゃないのか?」
さつき「…」
康男 「お父さんは悲しい」
さつき「…」
康男 「なあ、もし悩みがあるんだったら、話してみろ。な?」
さつき「…」
康男 「ほら、母さんには言えない悩みとか、あるだろ?(決めつけ)」
さつき「(小声)そういうとこだよ」
康男 「(気づかず)父さんなら答えられるかも知れないし。な、なんでも話してみろ」
さつき「…」
康男 「(期待)」
さつき「…なんでも?」
康男 「なんでもいいぞ。ちゃんと受け止めるぞ。どんとこい」
さつき「……じゃあさ」
康男 「おし…」
さつき「…………ちゃんと向き合って」
康男 「うん?」
さつき「…あたしの話聞いたことないよね」
康男 「…」
さつき「本当はあたしのことなんか興味ないでしょ?」
康男 「なにを言ってるんだ?」
さつき「…」
康男 「お父さんはお前のこときちんと考えているぞ。株をお前名義で買ったのだってお前のためだと思えばこそ」
さつき「(遮って)ああ、嘘、嘘。冗談」
打って変わって愛想よく。
康男 「え?」
さつき「(諦め)…騙された?」
康男 「(呆れて)なぁんだ。お芝居か」
さつき「お父さんてちょろいね」
康男 「まったく、親をからかうんじゃない。これだから年頃の娘は。わっかんないわ」
にこやかに歩いていく。
さつきの顔、真顔に戻る。
さつき「(小声)んなわけねぇ~だろ」
康男 「(振り返り)ん?なんか言ったか?」
さつき「(とびきりの笑顔で)なんでもない」
と、マスクをつける。
康男 「大好きだぞ、さつき」
さつき「(棒読み)パパ、あたしも~」
      



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