絵を描く

就職するまでは、毎日絵を描いていた。大袈裟な表現ではなく、本当に。旅行先でも欠かさず描いていたくらいなのだから。

幼い頃から絵を描くことが好きだった。
それこそ文字通り毎日描いているわりには大して上手くはならなかったのだが、それで筆を折ることなんて無かった。趣味だった。

就職して、時間が無くなった。
「絵を描く」という行為は、時間をかけても満足のいくものが出来るとは限らなかった。
ゲームは、プレイした時間きっちり楽しめた。
私は、ゲームにのめり込んだ。

「絵を描くことに時間を割くのが惜しい」と初めて思った。

そしてついに、ゲームもやらなくなった。
趣味は、動画を見ることになった。
ご飯を食べながら、ネイルをしながら、ぼうっと画面を眺めているだけで何かが満たされる。
救いのような気がした。

思えば高3の時、友人関係が上手くいかず毎日死んだような顔をしていた私がハマったのも動画だった。
声を出して笑ったおかげで、顔が筋肉痛になった。
人生に疲れた時は、大抵動画に救われていた。

私が「最近は絵を全く描かない」と告げた親友が、それを他の友人に話したらしい。その子は、「信じられない」と返したんだと。

私も信じられない。
きっと、過去の自分に話したってちっとも信じて貰えないだろう。

常に信じていたものでさえ、容易く変化してしまう。
これを順応性が高いだなんて、それが大人になることだなんて世間は言うのだろうか。

絵を描くことが当たり前になりすぎて「自分の好きなこと」が絵を描くことだということにやっと気がついたあの日の自分が懐かしく愛おしい。

少しでもクリエイティブな仕事に就きたくて選んだ印刷会社。

私は毎日、仕事で漫画に触れている。
私自身が絵を描く時間を費やして。

皮肉だ。



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