白、黒
人を巻き込むのは苦手だ。
誰かを誘って、温度感が合わないのが苛立つ。中々日程が合わなかったりすると、相手にやる気が無いんじゃないかと疑って嫌になる。やっぱり相手が自分と同じだけの熱量を持っていないと感じると、急速に萎える。全てどうでも良くなる。
そんな気持ちを味わいたくないから、物凄く相手の顔色を窺わざるを得ない。なるべく相手に要求しないように。無理をさせないように。不満を顔に出さないように。期待しないように。そもそも他人を頼らない様に。
でも一人で出来る事は少ないから、なんとか他人を巻き込もうとしてみた。巻き込まれて何かを手伝ってみた。
結論、俺はリーダーをやるべきじゃない。
はっきり言う。俺は曖昧なものを曖昧なままにしておくのが嫌いだ。大っ嫌いだ。突き詰めると、俺の社会に適合できない理由の一番の理由はそれだとさえ思えてくる。
人が己の弱さを見て見ぬ振りをするための欺瞞が嫌いだ。社会の打算を覆い隠す綺麗事が嫌いだ。なんとなくやってみてうまくいくだろうみたいな曖昧な方針が嫌いだ。事なかれ主義的に問題を起こさないために問題をそのままにするのが嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
見えてる問題を見て見ぬ振りをするのが納得がいかない。
何のために、誰のためにするのか。それで何を切り捨てる何を犠牲にする。自分たちは何を持っていて何を持っていないのか。故に手が届かない範囲は何なのか。ネガティブな要素を見て見ぬ振りをして通り過ぎるような欺瞞は我慢がならない!
でも俺は普段は口に出さない。
だってそうだろ? 数字に細かい奴は重宝されても、問題点に細かい奴はうざがられるだけだ。皆自分の弱さや愚かさを暴かれたくない。自分の想像以上に懸念点を挙げられたくない。一つ二つならともかく、日常生活レベルで見えてないものが沢山あるなんて言われたら不安になってストレスになるからな。反感を持つのも当然の反応だ。
増してそれが仕事も出来ない経験も実績も無い奴の言葉なら、誰が素直に受け止めるというのか。俺だって逆の立場なら嫌だ。
だからずっと我慢してる。口をつぐみ、オブラートに包み、身を慎む。求められない限り指摘しない。求められても受け入れそうな所を慎重に選ぶ。ずっと我慢してる。我慢がストレスにならないように、最初から殆ど諦めるようにしてる。「言っても仕方ないよね」「人間は弱くて愚かなものだ」「もっとひどい人は幾らでもいる」「自分は言えた立場じゃない」そうやって自分を言い聞かせて、ずっと押し込めている。
そう的外れな事を言う訳じゃない。良い悪いを語るつもりもない。駄目だと非難するつもりもない。でも分かっている。俺のやり方は人を怒らせる。理攻めで、正論パンチで、逃げ道がない。相手を否定することはなくとも、追い込み、明確な決断を迫る。甘えを暴き、弱さを晒し、犠牲を見せる。切り捨てるもの、甘んじて受け入れるものを選ばせる。それは、相当な心理的負担を強いることだ。そんなことは俺が誰よりも分かっている。そんな生き方を自らに強いてきたから、俺はこれだけ生きるのに苦労しているのだから。
だけど、その歯止めがきかなくなるタイミングがある。
自分が音頭を取って何かやる時だ。微に入り細を穿ち、基礎固めを一生やる。もういいだろ、ある程度でいいじゃんって所を一生突きまわしてる。それが息苦しさを生んで、人が離れる。明確ということは違いが分かりやすいということだ。ちょっとの違いすら白日の下に晒す。違うと思うと人は離れる。
だから人が離れる。だから人に期待しない。だから人が集まらない。だから何も起こせない。俺は無力だ。
わかってはいる。ある程度ファジーな方が人間関係もプロジェクトもうまくいくということを。遊びが無いと窮屈だし、捕球範囲も狭い。基礎固めと言えば聞こえがいいが、石橋をたたいて渡るどころか解体して一から設計し架け直す行為で時間はかかるし、可能性を狭めるし、中々物事は進まない。メリットの方がデメリットを上回る悪手だ。
だから幾ら屁理屈を捏ねようが、意味は無い。もはや方法論ですらない好き嫌いの問題だ。執着であり執念であり信念だ。意味を、選択を、理念を曖昧なまま流すのが我慢ならない。それへの反感が、飢餓感が、憤懣が素直に生きる事を許さない。有り体に言えば丸くなることを絶対的に拒絶している。そしてふとした時に噴出し、他人に迫ろうと鎌首をもたげる。
俺はどう生きればいいのだ。
本質的な問いを投げかけられること自体は、それなりに需要のある能力ではあるだろう。だがそういう指摘は上位者からされて初めて受け入れられるものだ。実績も無ければ実行力も無い人間の言う事など誰も聞かない。ガキの戯言だ。妄執に引き摺られて、現実に向き合うことが出来ずに来た人間なのだ俺は。
本質的な問いであっても、建設的な問いになっていなければ、即ち直地点までの道筋見通しがなければ、それは単に和を乱す行為だ。邪魔者でしかない。
俺は、俺はやはり排除されたままなのか。俺が邪魔なのか。役に立つ悪役に、アンチテーゼたるヴィランにもなれないのか。俺は……