覚悟の問題

 最近、思うことがある。
 人は、結局の所好きなようにしか生きられない。
 厳密には己を枉げた生き方をすることも出来るがそれはいずれ歪みを生み、他者の生き方をも歪めようとする人間になる。
 世の中はそういうもんなのだという価値観を他者に押し付ける人間に。俺も諦めたのにお前だけズルいぞと、認めないという人間に。
 だからやっぱり、好きなように生きた方が良いのだとは思う。
 だが、当たり前だけど誰もが好き勝手に生きられるわけではない。
 世の中の殆どは思い通りにならないことばかりで、譲れないもの守りたい物なんて、せいぜい一つや二つくらい守るのが精いっぱい。それすら守るためには力が要る。力を得るには他者に好かれる必要があり、その為には己より相手を優先する必要がある。
 好きなように生きる為に、我慢を強いられるなんて矛盾は、実際の所矛盾していないとはいえありふれている。
 でもなんにしろ、好きな事だけじゃ生きられない。好きなことで食っていけたのならそれは羨ましいけれど、その好きな事が誰かの役に立つかどうかはもはや運だ。好きな事が市場に需要が無かった時、人はどうすれば良いのだろう。

 別に通り一遍の正論を聞きたいわけじゃない。うまく共通点妥協点を探していくべきだってのは理解している。
 そういう話じゃない。
 俺の話だ。
 俺のやりたいことは身の丈に合わない壮大なことで、その為の実績も経験もリソースもなくて、ある種時代の流れに逆行することでもある。
 大方の人間が考える事を手放したがる時代だ。それが間違いだと、それが諸悪の根源だなんて思っているのだけれど、そんな説教誰も聞きたくないわけで。少なくとも何の肩書も権威も無いヒキニートに言われたくなんてないわけで。
 かといってその根拠を手に入れるための下積みに、何をすればいいのか分かっていても信じ切れずにいるわけで。

 そうなんだよな。結局いつも自信が無いに戻ってくる。
 頭でっかち、勘違い、分不相応、身の丈に合わない、経験ないくせに、参考文献は?、社会不適合者、夢想家、口だけ。
 幾らでも内から罵詈雑言誹謗中傷が湧いて出てくる。
 どんな根拠があって御大層なご高説を宣っているのか。
 大した勉強をしたわけでもなく、統計を取ったわけでもなく、肩書があるわけでもなく、経験があるわけでもない。
 そして俺は自分の経験したことしか信じないわりに、実際に経験する前に脳内の想像で引いてしまう。
 洞察力が優れているから行動する前に他の人が気付かないまま通り過ぎていることを理解出来ている?
 そう思う自分がいて、同時にあまりの自惚れっぷりに失笑を浴びせている自分がいる。

 俺の論に頷いてくれる人もいた。面白いと応援してくれる人もいた。有難い事だ。
 そんな有難い人に対しても、結局俺は信じていない。
「この程度の事理解出来てて当然で、この程度で自惚れてはいけないし、この程度理解できない人に褒められても仕方ない」
 なんて見下すような自分すらいる。
 俺にとっては考え続ける事が当たり前すぎて特別じゃなくなっているけど、一般とはわりと隔絶しているのだろうと思う部分もある。それだけの自負もあるし、色んな裏付けもある。
 そんな自分に自信を持ちたい心と思いあがるなと踏みつける自分がいる。
 もしかすると、どれだけ経験を積もうと関係ないのかもしれない。己を罵倒する己は、もはや理屈ですらないのかもしれない。

 幾ら論理をこねくり回しても、もう出てくる答えは変わらないのだ。
 批判の声に怯えても仕方がない。興味を持たない人間に気を遣う必要は無い。己の役割は火種を熾すこと。興味を持ってくれた人が育つ土壌を作ること。それはすぐには成せないこと。でも今その流れはわりと来ていて、直観としては時代の波をつかんでいる事。少し出遅れたけど、今ならギリまだ間に合う事。多分、ここで動かなければまた後で波を逃したと後悔する事。30という年齢も、案外まだ立て直しがきく年齢だということ。この領域に30で辿り着いているというのは一般的にはそこそこ凄そうだということ。

 直観は間違ってないと言ってるし、理性も同じ結論を出している。
 でもインナーペアレントとでも云える自分が常に俺を嘲笑い、同時に怠けものの自分が変わることに嫌がってぐずっている。

 言われずとも分かってる。どれだけグダグダ言い訳しようが、覚悟が足りないの一言でしかないのだと。
 でもどうやって覚悟って決めればいいのか分からないんだよ。追いつめられては逃げてばかりの人生だったから。
 どうしよう。もし本当に俺が覚悟を決められない人間だと思ってしまったら、そこれそ本当に絶望してしまうよ。死ぬしかなくなるよ。
 怖い。認めたくない。本気を出せばやれる人間だと思いたい。このまま終わりたくない。本当に口だけの人間で終わりたくない。頼む、頼むよ。嫌だ。死にたくない。本物の絶望をしたくない。怖い。もう流石に踏み切り時なんだよ分かってるだろ。なぁ、今回も逃げるのか、お前……

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