アルコール依存性の女 安定剤

「手の震えと動悸がとまらなくて、病院って開いてないよね?病院行けないなら、デパスほしいんやけど…」
電話の相手は父の遺体を発見してくれた知人だ。彼女は私の母の高校時代の友人なのだが、地元では少し名の知れた人で町の民生委員的な役割も果たしていた。
世話好きの彼女ならなんとかしてくれるかも、との思いで電話をかけた。
「さすがに病院は正月やからやってないけど、デパスならもらえるよ」

デパスとは数ある精神安定剤のうちの一つで、一般的によく処方されている。彼女の知人が内科に罹っており、そこでデパスを処方してもらっているそうだ。余っているデパスを私にくれるという。
処方された薬を他人に譲渡するのは本当は禁じられているが、手の震えを止めるためには仕方がなかった。

忙しい中、彼女は車で私の家に来てくれた。
どういう症状が出ているのかしっかり聞いてくれた。
「実は、手が震えて…たぶんお酒の影響だと思うんやけど」
酒浸りのこと。大量に寝汗をかくこと。明日から仕事をやっていけるか不安なこと。全て打ち明けた。
うんうん、と話を聞いてくれるだけでありがたかったが「良さそうな心療内科探しとくから来週一緒に行こ!」とまで言ってくれた。
「今日はしっかり食べて温かいお風呂に浸かってしっかり寝なさい」そう言い残し彼女は去って行った。神様みたいな人だ。

明日から新しい仕事が始まる。
新聞社ってどんなところなんだろう。
不安と少しの期待を抱き、眠りについた。

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