令和二年八月十四日 洗濯場にて
今日も暑いね。
あまりにも暑いので、縁側常連のみんなは足を盥に入れて涼んでいたよ。
もちろん、水をたっぷり入れてね。
今日の水心子は洗濯当番だったようだよ。
洗濯は基本、歌仙が取り仕切っているから、水心子はあくまでも手伝いをしに行ったのだね。
水心子は洗濯物をまとめて籠に入れ、洗濯場に運んでいた。
そこで、後ろから声をかけられ立ち止まる。
大きな声で呼び止められたから、すごくどきどきしていたみたいだね。
水心子を呼び止めたのは、鯰尾藤四郎だった。
何事かを水心子に耳打ちして笑う。
何度も頭を下げ、なにかを頼み込んでいるようだ。
そして、水心子に返事をする間も与えず、何某かの布を水心子の手に押し付ける。
鯰尾はそのまま走り去ってしまった。
立ち尽くす水心子を置いて。
水心子は籠を縁側に一度置き、鯰尾から託された布を広げた、が。
水心子は絶句する。
このボロ雑巾のような布はなんだ?敷布か?
なんにしろ、これはひどい。ドロドロだ。
--これを歌仙に渡す…?
水心子は身震いした。
どんな結果になろうとも、この布の汚れは歌仙の怒髪天を貫く。間違いない。
思案した挙句、水心子は洗濯場へ先回りして布をすすぐことにした。
水心子は駆け出した。
洗濯物の詰まった籠を置き忘れたまま。
*
こっそり作業をしようと思ったのに、水場では短刀たちが水と戯れていた。
歌仙はまだ来ていない。
水心子はそっと手を伸ばし、水に手をつけた。
「冷たい」
火照った指先が一気に冷え、指先がピリピリする。
水心子はため息をついた。
先程の布を川にざんぶとつけ、ごしごし擦り合わせる。
こんな方法で汚れが落ちるかは分からないが、やらないよりはマシだ、と思う。
すぐそこで、キャッキャと楽しそうな声が聞こえる。
水がはね飛んできたのに気づき、水心子は腕で顔を覆った。
「あ!すみません!」
ジャブジャブと水を掻き分け、数人の男士が水心子に駆け寄ってくる。
「水心子さん!お洗濯ですか?」
「こんな暑いのにご苦労様です」
「ね~水心子さんも一緒に遊んじゃわない?」
「このままじゃ茹でダコになっちまうしな!」
嵐のようにやって来た短刀たちが、口々に水心子を誘う。
水心子は一度手を止めて、立てたジャージの襟の中にもぞもぞと首を埋める。
まだはっきりと断れないようだ。
ところが、もぞもぞしていた水心子は背中を押され、頭から川に突っ込んだ。
後ろからは笑い声が聞こえる。
「水心子さ~ん、楽になっちゃいましょうよ~!」
両手両足が川のせせらぎを感じている。
短刀たちは笑うでもなく、流石にみな困ったような顔をしていた。
鯰尾!!!!!
水心子は何も言わず、洗濯の作業に戻った。
水心子が歩く度に、靴から水がざぶざぶと溢れ池を作る。
そんなびしょ濡れの状態でも洗濯ものを取りに行った。
***
きちんと任務を遂行する。
素晴らしい心がけだね。
でも、鯰尾にはきつく言い含めた方がいいと思うけどな。
***
源清麿 拝