愛の輪

すべてを知っていた

叡智の結晶であった我々は

生物がもう元に戻らないと知ったから

生物に流れる時間は元に戻らないと知っていたから

二度と同じ生物は創られないと知っているから

懐かしむ

今を懐かしむ

その時にとても愛おしい気持ちが湧いて

二度と来ない瞬間を懐かしんでいる

移ろい変わりゆくそれら

老化して崩壊していくそれら

いずれ消滅していくそれら

「また同じように」と願った人類は円環とゆらぎを生んだ

磁場は強く、ねじれの螺旋状になった

螺旋状になってしまった遺伝子を我々は眺めていた

星とおなじ運命を辿るのだなと我々は我々を通して知った

廻る銀河と星系の回転力は

なにも教えていないのに「また同じように」と願うようになる我々を見て

回転力の影響力を知った

軌道のように輪廻するの

そう言い始めた生物たちは

自分たちの戻らない今を戻りたいと願い輪廻の輪を創った

我々はただ見ていた

あまりにも賢く何もかも透過しているときは

面白くなくて幸福かどうかも分からなくて

「なにも知らないフリ」をして

道化のフリをした

この道化のフリがいつのまにか

本当の道化になっていった

だんだん自分たちが道化であることも忘れて

道化がなにかも知らず

ついに本物の道化が完成した

道化たちは苦しんで

本当は道化じゃ無かったんじゃないかと

自分たちが自分たちにかけた呪いを解きはじめる

魔法が溶けはじめると

とたんに叡智が還ってくる

そういえば、何も知らないフリをしていたんだっけ

あまりにも賢くて面白くなくて

懐かしむこともしなかったし

懐かしいがなにかも知らないし

愛おしいなんて

崩壊を知らねば起こらないと知り

永遠の中にいては起こりえない物質の変化

いずれ亡くなるそれらが愛おしいと

それが苦しすぎて道化を選んでしまった

我々はただ見ていた

道化を選ぶものたちはみなあまりにも

賢すぎて

それが苦しみの種になり

そして欺く術を次々に身に付けて

小さな螺旋は大きな円環を廻る

賢者と愚者は同じ願いと苦しみを抱え

愛の輪の中でいまも廻っている