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パステル色の明るい未来

こちらは、私とちよこさんでお届けする、マジカルバナナ的リレー小説になります。
ちよこさんからのバトンは、この小説のタイトル、「パステル色の明るい未来」になります。

では、本編へどうぞ。


***

柔らかな春の風が吹いた。
小さな花たちが咲き始めた公園の花壇。
満開の桜が、時々風に吹かれて、その花びらが雪のように空に舞う。
その前を通り過ぎる人々の表情も、春の訪れに心なしか明るく感じられた。
スイートピーの花束を抱え、優希の元へと急ぐ。
淡いクリーム色や、レモンイエロー、ピンク色、薄い紫色に水色。
優希の大好きな、パステルカラーばかりを集めて、花束を作ってもらった。
優希の喜ぶ顔が、目に浮かぶ。その笑顔を想像するだけで、この上ない幸せを感じられた。

俺と優希は、幼馴染みだった。母親同士が仲が良く、家も隣。子どもの頃から毎日のように同じ時間を過ごしてきた。
優希のことで知らないことなど、何もない。
ポケットの中には、さっき受け取ってきたばかりの指輪を忍ばせてある。ひと粒の大きなダイヤモンドがついた、いわゆる婚約指輪というやつだ。
優希の白くて細い指に、この指輪をはめる。プロポーズの言葉とその光景を、何度も何度も、シミュレーションしてきた。

約束の夕方6時。
だいぶ日がのび、公園にはまだまばらに人がいる。
待ち合わせの噴水の前に、優しい水色のワンピースを着た優希が立っていた。
こうやって待ち合わせをするのは、久しぶりのことだった。わざわざ待ち合わせなんてしなくても、会いたい時に窓から優希を呼べば、いつでも会えるのだ。なんだか、こうやって待ち合わせをすることがとても緊張する。

優希の前を、幼稚園くらいの男の子が通り過ぎようとしていた。
左手はお母さんと手を繋ぎ、右手には3つの風船を持っている。
俺の持っているスイートピーの花束と同じような、パステルカラーの風船だった。

俺に気づいた優希が、照れくさそうに手を振ってくる。
ちょうどその瞬間、その男の子は持っていた風船を手から離してしまった。
3つの風船が、ふわっと空を舞っていく。
ピンク色、水色、レモンイエローの風船。
男の子は慌ててジャンプしたけれど、全く届かない。
手を繋いでいたお母さんの方も、慌てて手を伸ばしたけれど、3つの風船は空高く風に揺られていってしまった。
優希も手を伸ばしたけれど、風船に手は届かなかった。

男の子は、今にも泣きそうだった。
そんなふたりを見た優希も、何もしてやれずに困っているように見えた。
風船はすでに見えなくなっていた。

「ちーちゃんにピンクの風船あげようと思ってたのに」

「仕方ないでしょ?」

男の子は、必死に涙を堪えていたけれど、もう目から涙がこぼれ落ちる寸前だった。
俺は、その男の子にそっと近づくと、持っていたスイートピーの花束から、風船と同じピンク色、水色とレモンイエローのスイートピーを1本ずつ渡した。

「風船のかわりに、これをあげたら?」

そう言うと、男の子はパッと明るい顔になった。

「ありがとう、おにいちゃん。これでちーちゃんにプロポーズできるよ」

「なんか、すみません。ありがとうございます」

「はい、気にしないでください。頑張れよ、プロポーズ!」

男の子がスイートピーを受け取る。お母さんは、もう一度頭を下げると、そのまま男の子と手を繋いで公園を後にした。

「その花束、私に?」

3本のスイートピーを抜いてしまった花束は、若干不格好になってしまっている。

「ごめん、勝手にあげちゃって」

そう言うと、優希はふるふると首を横に振った。

「あの男の子が、ちーちゃんにプロポーズできるでしょ?」

「そうだな」

優希が優しく笑う。
俺はそっと優希の前に跪くと、少し不格好なその花束を差し出した。

「俺と結婚してくれませんか?」

花束を受け取ってくれた優希を見つめる。
今度は、ポケットから指輪を取り出して、その箱の中身を見せた。

優希は静かに、少し恥ずかしそうに頷いてくれた。
ガッツポーズをすると、優希が左手を差し出してくる。
優希の左手を取り、俺はその指輪を優希の左手にはめた。
指輪はぴったりのサイズだった。優希は最高の笑顔で俺の手を握りしめてくれた。

「今ごろ、さっきの男の子はちーちゃんにお花渡してるかな?」

優希が幸せそうに指輪を見つめ、スイートピーの花束の香りを嗅ぐ。

「あぁ、きっとプロポーズ作戦は大成功だろ」

「ちーちゃんも幸せだね、絶対」

もうすっかり、公園の中には、人がいなくなってしまっていた。
俺は、優希の手を引くと、2人で並んでベンチに腰をおろした。

「最高の夜だな」

月あかりが、俺たち2人を優しく包み込んでくれている。

「本当、最高に幸せな1日」

スイートピーを抱えた、優希の横顔を見つめた。
この先も、俺はずっと優希の笑顔を守っていくと、空に誓う。
ふたりきりのたったひとつの夜


fin

ちよこさんの小説、お楽しみください!



2020.3.28

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。