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月の涙と星のカケラ

部屋の電気を消すと、天井にプラネタリウムが広がる。
ベッドに仰向けになると、私はその手作りのプラネタリウムをじっと見つめ、それから数十秒後、静かに目を閉じた。

今夜の月は三日月だった。
今にも折れてしまいそうなほど、か細い三日月を思い浮かべて、私は天井に向かって、そっと両手を伸ばす。

身体ごと、宙に浮かぶ感じがしたところで、ゆっくりと目を開けると、私は三日月に腰を下ろしていた。

そのまわりには、たくさんの星たちが瞬いている。
手を伸ばすと、小さな星がひとつ、涙のような雫のカタチにかわって、私の手のひらの中におさまった。
小さな小さな、涙のカタチをした星のカケラ。
それをギュッと握りしめると、瞬いていた星たちが、まるで流れ星のように順番に流れていく。
三日月に座りながら、私はその流れ星たちをうっとりと眺めていた。

「大丈夫?」

突然、手のひらの中の、涙のカタチに変わった星のカケラから、声が聴こえてきた。
その声は、優しくとても懐かしい声色だった。

「大丈夫」

星のカケラに向かって、強がりを言う。
この恋は間違っていたんだ。最初から。出会いの瞬間から。

泣かないって決めてたのに、私の瞳からは涙がポロポロと溢れ出し、それが星のカタチにかわって、空に瞬く星になっていった。

「泣いてもいいんだよ」

それは、母の声だった。私が産まれたときに亡くなってしまった、優しい母の声。
あの部屋のプラネタリウムを作ってくれた、母の声だった。

声の主が母だとわかると、さっきよりももっと、大粒の涙が溢れ、それは大きくて明るい星へと姿を変えていく。

「理央、辛いときは泣いてもいいの。あなたが辛いときは、私がずっとあなたのそばにいるから」

母が亡くなったのは、今夜のような三日月の夜だった。
命がけで、私のことを産んでくれた母のことを、三日月の夜になると父はたまに話してくれた。
そのときは、なぜかいつも隣に母が座っていて、私の頭を撫でてくれているような感覚だった。

母の声を私が知るはずなんてない。
だけど私は、この星のカケラから聴こえてくる声の主が、母のものだって知っている。

泣きたいくらい辛いとき、いつも夢の中で、「大丈夫」って励ましてくれる声があった。
夢の中でも、その声の主は私の頭をいつも撫でてくれていた。

星のカケラが私の手のひらの中で、ふたつにわかれる。そして、そのうちのひとつは、まるで流れ星のように空に向かって消えていった。

「理央、大丈夫。この星のカケラが、あなたを最後の恋に、巡り合わせてくれるから」

手のひらに残った星のカケラのまわりに、近くの小さな星たちが集まってくる。
そしてそれは、まぁるい輪になった。

突然、電気がパチっとつく。
手のひらの中にあったはずの星のカケラが、ネックレスにかわって私の首元にかけられていた。


fin

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素敵な企画、ありがとうございます。



いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。