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僕はいつも、一番にはなれない #言葉を宿したモノたち

彼女はいつも、僕を愛おしそうに見つめ、無意識に僕に触れてくる。
彼女の細い指が、僕に触れると、僕はそれだけで最高に幸せな気持ちになれる。

彼女には、僕以外の愛する恋人がいる。
僕を見つめるような熱い視線で、彼女はその恋人のことを見つめている。
そんなとき、僕の中心部分は、チクリと鈍く痛む。それでも、彼女はいつものように僕を愛おしく見つめ、恋人との時間が終わったら、僕だけのために微笑んでくれるのだ。

彼女が僕に触れている時間は、彼女が恋人に触れている時間よりも長い。
彼女の体温は、とても心地良くて、僕はそれだけで幸せだ。
でも、彼女が恋人に触れている時間は、彼女は僕のことなんて忘れてしまっている気がする。
そんなこと、怖くて聞けないけれど、彼女の体温が僕に触れているときよりも少しだけ、高く感じるのだ。

ある日のこと、彼女はとても悲しそうな顔をしていた。
僕のことを見つめる彼女の目からは、大粒の滴がぽつり、ぽつりと落ち始める。
最近、彼女が涙することが増えていた。恋人と言い争うことも増え、そのたびに僕の中心部分もチクリと痛む。
どのくらい彼女の涙を見つめていただろうか。
僕だったら、彼女を泣かせたりなんてしないのに。
彼女は僕を離すと、僕から距離を置いた。

コトンと音がして、世界が真っ暗になる。
ここは、どこだ?
さっきまで感じていた彼女の温もりはもうない。まるで、世界が一変したかのようだった。

「また恋がひとつ終わったな」

すぐ近くから、声が聞こえてくる。

「どういうこと?」

真っ暗闇の中、問いかけた。

「お前さんは、失恋したってことさ。もう彼女は君には二度と触れない」
「な、なんでそんなこと、お前にわかるんだよ!」
「少し前の僕が、君と同じだったからさ」

ひんやりと冷たさを感じる。
僕の中心部分は、彼女が触れなくなって初めて、輝きを失ってしまった。

そうか、僕は失恋したのか。


◇◇◇◇◇

参加しています。


◇◇◇◇◇

さて、彼女に恋し、彼女に失恋してしまった僕は、なんでしょうか?

A.スマホ
B.ゆびわ
C.合鍵


#言葉を宿したモノたち  答えはわかりましたか?

2020.11.2

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。