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デートでは、くるくるできない

ふたつ年上の彼氏、悠希くんとの初めてのデート。
待ち合わせ場所に行くと、すぐに悠希くんの後ろ姿を見かけた。
きっと、好きな音楽でも聴いているんだろう。
私が到着したことに、気づく様子はない。
私は、ゆっくりと悠希くんに近づくと、後ろから肩を叩いた。

イヤホンを外して、悠希くんが優しく微笑んでくれる。
鞄にイヤホンをしまうと、悠希くんがさりげなく左手を差し出してきた。

「来てくれてよかった」
「来るに決まってるでしょ?」
「それでも、不安だったんだよ」

悠希くんが右手でポンと私の頭を叩く。
その不安な気持ち、わからないわけじゃなかった。だって私も悠希くんの背中を見つけるまで、まったく不安じゃなかったかと言えば、嘘になるから。

「映画観る前に、とりあえず昼メシにしよう」
「うん」
「この店どう? 女の子って、こういうお店好きでしょ?」

悠希くんが選んでくれたのは、気になっていたパスタ屋さんだった。
何度か店の前を通ったことはあったけど、高校生だとちょっと入りにくくて、いつかデートで来れたらいいなと思っていたお店だ。

お昼少し前ということもあり、店内にはまばらにお客さんがいるくらい。
店員さんに案内されて、窓際の席に座ると、悠希くんと一緒にメニューを広げた。

「俺はグラタンにしようかな。里奈は?」
「私は、この明太子クリームのスープパスタにする」

メニューには、一番人気と書いてある。
迷うことなく決めると、悠希くんが注文してくれる。

悠希くんの大学のこと、私の高校のこと、いろいろ話していると、悠希くんの頼んだグラタンと、私の頼んだスープパスタが一緒に運ばれてくる。
「いただきます」と、ふたりで食べ始めると、私はすぐにこのスープパスタを頼んだことを後悔した。

サラサラなスープがあるせいか、うまくフォークにパスタを巻くことができない。
なんとか少しずつ口に運ぶものの、どんどん食べ進める悠希くんに対し、私のスープパスタはほとんど減っていない。
うまく巻こうとすればするほど、目の前に悠希くんがいることに緊張して、するするとフォークからパスタが抜けていくばかりだった。

「どうかした? あまり食べてないみたいだけど」

悠希くんが少し心配そうに私を見つめる。

「うん、なんか緊張してるからか、うまくフォークに巻けなくて」

素直に言うと、悠希くんがほっとしたように笑った。

「あんまり、里奈のこと見ないようにするよ」

そう言って、悠希くんは目を瞑ってくれる。
先にグラタンを食べ終えた悠希くんは、目を瞑ったまま、大学であった面白い話をし始めてくれた。
ちょっとだけ緊張が解けた私は、悠希くんの話を聞きながら、なんとかスープパスタを食べ終えた。

「悠希くん、ありがとう。食べ終わった」
「そんなに緊張することないのに」

目を開けた悠希くんが、優しく微笑みかけてくれる。

「うん、でももう、デートでスープパスタは頼まないようにする」
「どうして?」
「だって、悠希くんが私を見てくれないのは、ちょっと淋しいし」

そう言うと、悠希くんは照れくさそうに私のおでこを小突いた。


fin


こちらの企画に参加しています。
ギリギリ滑り込みセーフ!

あの日、デートでは二度と食べないと誓った私も、頑張ってデート以外で練習をして、無事にくるくると巻けるようになりました。

ほぼ、実話です。

2020.5.8

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。