短編小説 『のろい』

短編。

「知らないんです」
取り調べ室の男は言った。彼の様子から見るに、それは事実らしい。どうやら本当に知らない間に他人に暴行を加えたらしい。

ーーーー僕には呪いが見える。
唐突に彼は呟いた。そして、彼は何があったかをブツブツと語り始めた。

呪いというのは、なにかに対して想いが強くなりすぎると現れる物だ。僕にとっての呪いは僕自身だ。

僕が駅のホームで待ってるとそいつは現れた。いやそこにいた。僕へ近づいてきて話しかけてきた。赤い靴下が特徴的でこんなの履いてる人は他にいないだろうっていう靴を履いている。陽気に「やぁ!」なんて言ってくるものだから怖い怖い。当然無視した。

なんで無視するんだよ、と、当然の反応をしてきた。ウザいので完全無視をすることにした。完全無視は相手に最も苦痛を与えると知っていたからだ。

「僕はお前自身だ。僕はお前だ。」

その言葉にとても反応してしまった。何故ならそう聞こえた声は自分の中からも聞こえる。目の前にいる奴の口からと自分の中から、同時に聞こえた。とても気味が悪い。

恐る恐る聞いた。お前は誰だ、って。

僕はお前だ。また聞こえた。

そいつは隣に座ってきた。

あ、いま、あの女子高生、お前の顔見て笑ったぞ。

そんなわけないだろう。

自分で思っただろ。お前は無意識にいまそう思った。余裕がないなぁ。。

見透かされる。こいつには。何を考えても。何をしてても。そしてやっぱり自分の中からも聞こえる。僕は逃げ出した。ただ。

どこに逃げても無駄だと分かった。そいつはどこにでもいる。トイレの中にも。寝てる時も。

明くる日、疲れでもう限界だった。前を向くこともスマホいじることも出来ない。もうやつれて、ずっと首は下。歩いている人の靴ばかり見ていた。そこに奴は現れたのだろう。あの靴だ。もう限界だ。隣、空いてる?と、聞いてきた。自分の中からは、もうあの単語しか出なかった。

「死ね」

気がつくと、僕は誰かに、何かに取り押さえられてた。スマホを向けてる人もいて、何があった?いったいどうしたんだと声が聞こえた。
目の前には血だらけの人。僕にも血が付いていた。

なにかテロでもあったのかなぁ。それくらい騒然としてる。自分の中からは、ただ、

「大丈夫、、大丈夫、、」

と、聞こえてきた。あぁ、案外あいつは良い奴だったんだなぁと思って名前を聞いた。

「呪い」

って言ってきた。予想外でもうおかしくておかしくて、だって、呪いなのにこんなに良い奴なんですよ!僕はそこでめちゃくちゃ笑いました。

おい、呪い!お前いいやつだな!!

そう、良い奴なんですよーーーー


男はそこまで話すとふっと目をこちらへ向けた。うるうるした目で、

「僕は虫も殺せないような男です。信じてください。」

男はそう言って、泣き出した。子供のようにワンワン泣いている。そうなってしまうともうどうしようも無い。

また、鍵の向こうへ連れて行く。

鍵を閉じると、男は不意に泣き止みそして男は静かに語り始めた。

俺は本当に知らないんです。
聞いてくれますか?ーーーー

おしまい。

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