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アニメーションを伝えていくこと。

山村浩二さん


__地方のまちに足りないもの
ぼくが東京で出会った文化の1つに、短編アニメーションがある。もしかしたら、アニメーションと聞いた多くの人がいわゆる"アニメ"のことだと思うかもしれないんだけど、ちょっと違う。


短編アニメーションは、10〜15分くらいの短いアニメーション作品だ。長編では物語や冒険を伝えるものが多いけど、短編は映像表現に特化しているものが多い。その魅力は、音と動きのタイミングが合う気持ち良さ、1つのものがどんどん変化して別のものに変わっていく動きのおもしろさ、絵の質感などとにかくいろいろ。どきっとするようなメッセージが込められているものもある。


日本のいわゆる"アニメ"はもともとのアニメーションの意味から考えると狭義になっていると思うんだけど、東京で暮らすまでは"アニメ"しか知らなくて、いろいろなアニメーションがあるということにすら、全然気がつけなかった。


福島で暮らしていて、東京と比べて圧倒的に足りないと感じるものは、"新しい文化に触れる機会"だ。"新しい"というのは、"世の中にまだない"ということじゃなくて、"自分がまだ知らない"という意味で。


もちろん、国内のまちで考えれば、東京近郊にはあらゆる文化において人材も情報も最先端のものが集積しているし、それに関連するビジネスも発達している。その文化を楽しむたくさんの人たちが、自分たちでコミュニティを作りながら、自然に育んでいく。だから、東京のまちはどんどん変化して、おもしろい。


これからの地方のまちが、おもしろい場所、魅力的な場所になっていくために大事なことは、そんな風に新しい文化が取り込まれて、育まれて、どんどん変化していくこと。新しい価値を持った空間がまちの中にできることだ。東京のようにはいかないけれど、もっと小さい規模で新しいものが生まれていく環境が必要だと感じている。


例えば、福島で生まれて東京で暮らして、また福島に戻ってきた人や、何かのきっかけでたまたま福島で暮らすことになった人たちに、どんどん東京や世界のおもしろい文化を持ち込んでほしい。そうやって、おもしろい人たちが、おもしろいまちを作っていく。


自分ならなにができるか考えたら、福島でアニメーションの上映会を開催して、価値ある空間の1つをまちの中につくることができないかなと思いついた。


そこで、地方で上映会を開催することができるかどうか相談に行ったんだ。それも、世界的なアニメーション作家、山村浩二さんに。ぼくにとってはもう、夢のようなインタビューだった。

__アニメーションが提供される場

山村さんは、アニメーションに対して複数の顔を持つ方だ。アニメーション作家であり、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の教授であり、評論家であり、Au Praxinoscope(オープラクシノスコープ)というアトリエ兼ショップのオーナーでもある。

ふくしま空間創造舎として、上映会開催についてアドバイスを頂くには、山村さんのようにご自身でアニメーション上映会を開催するような、幅広い活動をされている方にお聞きしたかった。


アニメーションを仕事としていないぼくは、短編アニメーションの作品に触れる機会は、映画祭や芸術祭しかないと感じていた。映画祭で作品を観て、DVDなどを買いたいと思っても、売っているお店がない。


世界中のアニメーションを見てきた山村さんいわく、「国内で短編アニメーションの作品を常設で、この規模で販売している場所はここしかないし、世界的に見てもフランスに1軒あるだけでほとんどないですよ。」とのこと。
山村さんもこのような、アニメーションが提供される場の少なさを感じて、作家でありながら、自らAu Praxinoscopeを開設し、店内で「アニメーションキャビン」という山村さんがセレクトした短編アニメーションの上映会の開催を続けているのだそう。


「日常的にアニメーションに触れられる機会が少ないなとは思うけれど、自分が感じる需要を考えるとこのくらいなのかなと思います。若い頃は、なんでもっと広がらないんだと思うこともあったんだけど。」
と、ぼくたちが感じていることを読み取って、過去の自分の感覚と照らし合わせて教えてくれた。


アニメーションが提供される場として身近なものには、NHKのテレビ番組がある。特に子供向け番組の数々は、若手のアニメーション作家や映像作家の活躍の舞台になっていて、実はアニメーションとしてのクオリティが高い。ぼくは、中学生になった辺りからあまり観なくなっていたけど、大人になってからむしろよく見るようになった。


山村さんの作品もNHKで放映されていて、クレイアニメーションの「カロとピヨブプト」、「パクシ」などは子どもの頃観たという人も多いと思う。NHKで良質なアニメーションを見ることができるのは、アニメーションに注目したプロデューサーがたまたまいたからなんだって。

短編アニメーションは、マーケットの規模としては小さいのかもしれないけれど、だからこそ顔の見える関係性の中で、アニメーションという表現手法に魅せられた人たちがアニメーション業界をつくり、守り、育てているんだ。

____アニメーション作家としての「頭山」の制作

「お金になる仕事もしながら、あるとき助成金などの予算がつけばそれで制作して、なければ自費で出すこともあって、常にその繰り返しですよ。」
「でも、お金になる仕事であっても、作家として共感できない仕事はやっぱりできないですね。」

芸術の分野では、どんな人でも直面することだと思うけど、作品を制作することと並行して、自分が生活するための費用は稼がないといけない。かつてアニメーション制作が行われていた共産主義国のように、国からの資金提供だけで作家として生きていくのは、日本では難しいようだ。

でも、だからと言ってどんな仕事も引き受けるわけではない。クライアントによっては残念ながらアニメーションに対する理解が乏しく、人気の作家だからお願いしてみようという程度の感覚の人もいるみたいだった。


経済活動との折り合いをつけながらの制作となる中、山村さんは頭山の製作に6年の歳月を費やしている。制作に対する想いについて聞くと、


「作品ができた先に何があるかなんてことは全く考えていなくて。でも、これだけはやらないと、作家として生きていけないと思っていた。」


と、当時のことを振り返った。結果的に『頭山』は、アカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされ、アヌシー国際アニメーションフェスティバルではグランプリを受賞し、いずれも日本人として初めての偉業を成し遂げた。

経済活動とは切り離してアニメーションの制作に没頭したことが、結果的にその後の仕事につながっていったんだそう。資本主義の国で、資本を前提としない仕事だからこそ、本当の価値が生まれていくのかもしれない。


__アニメーションの伝え方
最後に、福島でのアニメーション上映会を開催する具体的な方法についてお聞きした。

その方法は、動画サイトVimeoから直接作家に連絡して、作品を提供してもらうというものだ。Vimeoでは、多くの作家が自身の作品を無料で公開していて、世界中の短編アニメーション作品を楽しむことができる。
作家側も上映の機会を探していることが多いので、上映会の趣旨を説明してお願いすれば、きっと協力してくれる人がいるだろうということだった。上映場所は、福島のカフェのやギャラリーなどを当たろうと思っている。

上映会は、短編の作品をセレクトして組み合わせたものを上映する。1作品ずつ、参加者同士とコミュニケーションを取りながらじっくり丁寧に理解を深めていくのもいい。
もし、福島で上映会ができそうな場所があったら、情報提供おまちしています。それから、まだお会いしていないアニメーション好きな方の情報も。
これから、1つ新しい価値を、ふくしまのまちのどこかで提供していきたいと思います。

ふくしま空間創造舎 上神田健太

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