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ふくしまの、まちをつくる人たち #5

OPTICAL YABUUCHI  藪内義久 -Yabuuchi Yoshihisa-


_真摯なものづくりをする人たちの想いを伝えたい。

 OPTICAL YABUUCHIは、福島近郊に住んでいる少し感度の高い人なら誰もが知っているような、福島を代表する眼鏡屋さんだ。国内から海外のものまで、センスの良い眼鏡がたくさん置かれている。これらの眼鏡のほとんどは、藪内さん自身がセレクトしたものだそうだ。
 
 「お店で扱うかどうか決め手となるのは、この人とずっと一緒に仕事をしたいと思えるかどうかですね。」

 藪内さんが眼鏡屋として伝えていきたいことは、単におしゃれな眼鏡を売るということではなく、眼鏡をつくることを通して作り手の想いや人柄までも含めた価値を届けることだ。

 売れている売れてないということよりも、その人が信念を持ってつくっているかどうかを大切にしているのだそう。人がよくて、物がよくて、嘘をつかない。そういう眼鏡だけをここでは取り扱っている。

 お店に並ぶ眼鏡のほとんどは、作り手と直接会って、話を聞いてから藪内さん自身がセレクトしたものだ。デザイナーや作り手との対話の中から、信念や哲学的なものを感じられれば、それが結果として眼鏡というプロダクトのデザインに良い形で落とし込まれていく、というのが藪内さんの捉え方だ。

 現代では、ネットの時代ということもあり、安くつくってたくさん売ることもできるけど、その中でわざわざ”めんどくさい”作り方をしている人たちがいる。その人たちがつくる眼鏡の中には、何か美しさや光る物を感じるとことがある。それは、彼らの真摯にものづくりに取り組む姿勢が形となって現れたものだ。

「そういう人たちを見つけて、伝えられなければ、自分たちのいる意味がないと思いますね。」

 そう語る藪内さんは、眼鏡を見つけることはもちろん、その奥にある”人”を見つけるプロフェッショナルなんだ。


_眼鏡を通じてファンとつながる。

 身内の話で恐縮だけど、ぼくの妻がOPTICAL YABUUCHIで眼鏡をつくったときのことを紹介したい。

 妻は、昔から乱視で目が悪かった。ここ数年は特にコンタクトレンズや眼鏡をしていても、夕方になる頃にはピントが合いにくくなり、本を読むのがとても大変だった。その頃、東京に住んでいたので、都内の眼鏡屋に行って相談したけど、結局症状がよくならないまま過ごしていた。

 福島に住むことになってから、長年の目の悩みをOPTICAL YABUUCHIに相談してみようということになり、訪ねていった。そこで、すごく時間をかけて目の状態を調べてくれて、乱視の他に軽度の遠視であることを見抜いてくれた。その日妻はすごく嬉しそうに家に帰ってきたことを覚えている。

 お客さんに寄り添って丁寧に調べてくれる眼鏡屋だからこそ、遠視を見抜くことができたんだと思う。

それ以来、妻はOPTICAL YABUUCHIのファンの1人だ。

 また、眼鏡をしっかりファッションアイテムの1つにしてくれるのもこの店の魅力だ。藪内さんがセレクトした眼鏡の中でも、海外製のものは日本人の顔の形に合わないそうだ。それを、その人の顔に合うように直して提供している。

 「かっこいい眼鏡をかっこよくかけてもらいたいんです。」

 ここでは、眼鏡をちゃんとファッションアイテムにしてくれるから、本来医療目的のはずの眼鏡を、アクセサリーのように気軽に、おしゃれに身に付けることができる。

 この店に来るお客さんのほとんどは、良い服を買いに行くときに近い感覚で訪れているに違いない。そして彼らは、ここで買った眼鏡をかけて、ちょっとおしゃれして、またこの店や福島のまちに買い物に来る。

 こんな風に、ここで眼鏡を買った人たちは、眼鏡を通じてこの店や藪内さんのファンになっていくみたいだ。

_雑居ビルからクリエイティブな人たちが集まる場所へ。

 現在OPTICAL YABUUCHIのあるこのビルは、藪内さんの祖父の代に建てられたビルだ。今でこそ、1階ではおしゃれな雑貨と眼鏡、2階にはセンスの良い花屋さんとレコードショップ、3階にはカフェとギャラリーが入居しているけど、ちょっと前までは違っていたようだ。

 先代の頃には、1階には両親の経営する眼鏡屋、2階にはスナック、3階には雀荘が入った、いわゆる雑居ビルという感じだった。

 2階で自分のお店をやって良いと両親から言われてから、セルフリノベーションでコツコツ自分の店を作っていった。自分のお店ができると、今度は隣の空きスペースも自分の好きな雰囲気に改修していく。すると、その情報を聞きつけた1人が、そこでレコードショップをやってくれることになった。

 自分のビルの空きスペースを自分の好きな雰囲気に改修していって、それを貸していくと、自分と同じような雰囲気の仲間が集まってくるんじゃないか、という期待感を感じたと言う。

「新しいものをつくるのも良いけど、古いものを生かしたほうが土着的だし、工夫が見えるので好きなんです。」

 そう言って藪内さんは、これまで自分の手で空きスペースをどんどんリノベーションしていったことを教えてくれた。そうやって、13年ほどかけて徐々にいまのヤブウチビルが出来上がっていった。

 2017年の今年、3階の空きスペースがギャラリーとして生まれ変わった。藪内さんがここでギャラリーをやろうと思ったきっかけの1つには、イギリスに留学していたときの経験が大きく関わってくる。

 藪内さんがイギリスで暮らしていたとき、まるで花でも買うように、日常的に絵を買っていく人たちの暮らしぶりを見たそうだ。日本人が絵を買うときは、何かすごく気合を入れて買わなければいけないような、そんな空気感がある。でも、イギリスではアートと生活がすごく近かった。だから、そういう場を福島でも提供したいと思い藪内さんはこのビルにギャラリーをつくったんだ。

 そして、自分たちの感動したものだけを展示して、作家ともつながれる、福島らしいギャラリーにしたい。そういう想いで藪内さんはこのギャラリーを運営している。

 


 OPTICAL YABUUCHIは、眼鏡屋でありながら、眼鏡のことはもちろん、ビル全体を通じて新しい価値をこのまちに提供している。今年オープンしたOOMACHI GALLERYがこれからどんな風に市民のギャラリーとして育っていくのか楽しみだ。

 このまちで暮らす人たちが、OPTICAL YABUUCHIの眼鏡をかけて、このビルを訪れて、雑貨や花やレコードを買ったり、カフェで食事したり、絵を見たり。そんなまちの風景がこの場所にできている。このビルでは、福島のまちでかっこよく、おしゃれに、豊かに暮らしていけることを、藪内さんやこのビルで働く人たちが教えてくれる。

ふくしま空間創造舎 上神田健太




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