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エリアデザインラボ #2

1 蔵前というまち

 東京都台東区に、蔵前というまちがある。
 「蔵前」という地名は、江戸時代に米を貯蔵するための蔵が立ち並んでいたことに由来している。隅田川を使って、蔵前から日本橋まで、船で荷物を運ぶような場所として発展していった地域だ。
 私が東京に住んでいた2010年頃、職場が蔵前にあった。当時は、空きビルが多かったが、数年のうちに革小物、クラフト、雑貨、ゲストハウス、カフェなど、小規模な店舗がたくさんできて、東京の中でも何か他のエリアと違う雰囲気を感じていたので、このまちのことを調べてみることにした。

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2 蔵前のまちの状態

 蔵前周辺エリアは、もともと卸売業が盛んなまちで、バッグや靴や革などの、材料や部品などを販売しているお店が多い場所だった。昭和60年頃から、事業所数の減少などが見られ、日本全体の統計と相関して、産業の衰退が始まっている。
 また、東京といえど、近年は人口が減少する傾向にあるので、蔵前でも小学校の閉校などの現象が起きている。

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 2010年以前の蔵前のまちの状態をまとめると、以下のようなものだった。このような場所だからこそ、若手のデザイナーやクリエイターが出店をするためのポテンシャルが揃っていて、後に発展に繋がっていく。

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3 蔵前の変化の仕組み

 まちを調べる中で分かってきたのは、蔵前のまちの発展を支えるいくつかの仕組みや条件があることだ。
 1つは、蔵前が元々ものづくりが盛んな地域である文脈を受け継いで、それを若い世代が再編集して伝えていることだ。同じ素材を使っても、今の時代に合う価値観やデザインを生める若い世代がいなければ、そのものの良さが伝わらない。特に、『台東デザイナーズビレッジ』は、旧小島小学校の跡地にできた、若手デザイナー・クリエイターのための育成施設だ。ここの卒業生が、近隣エリアに出店を続けていて、地域人材の育成装置になっている。
 また、昔から住んでいる地元の有力者がそのような若手人材を受け入れ、まちをつくっていくことを任せていることも大きな要素の1つだ。いくら実力のある若手でも、ある地域に入り込むには、そこで受け入れてくれる地元の人たちがいなければうまく行かない。

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 このように、蔵前のまちがここ10数年で発展を遂げているのには、理由があった。蔵前の調査を通じて分かったことは、どんな地域においても、持続的にまちが続いていくために必要な要素だと考えている。私は、福島県国見町に軸足をおいてまちづくりの事業をしているが、当時の経験から学んだことを、今も活かしてまちづくりを続けている。

文:上神田健太


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