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ふくしまの、まちをつくる人たち #1

Helvetica design 佐藤哲也 -Sato Tetsuya-

__Helvetica designとの出会い
ヘルベチカデザインの佐藤哲也さん、遠藤令子さんとの出会いは、約1年半前の2015年5月に渋谷のヒカリエで開催されたD&DEPARTMENT主催の「地域とデザイン」というイベントだった。

地方のデザイナーの仕事というと、行政や企業が開催するイベントのチラシ製作などがほとんどというイメージで、福島にも洗練されたデザインをするデザイン事務所があるんだと、素人ながらに関心していた。

ぼくはイベント最後の質問時間に「来年から転職で福島に引っ越すんですが、地方におけるデザイナーの役割は変化していると感じますか?」と、壇上のナガオカケンメイや原田さんに質問をした。それを聞いていた、佐藤さんから、イベント終了後に声をかけて頂いた。それが出会いだった。

__どこまでがデザイナーの仕事?
一般的に、デザイナーと聞くと”グラフィックのデザインをする人”というイメージが強いと思う。でも、ヘルベチカデザインの仕事は、グラフィックのデザインをすることがメインではない。むしろ、グラフィックのデザインが出来るまでのプロセスをつくっていくところに重点が置かれている。

高度経済成長からバブル崩壊ころまでの右肩上がりの経済の中、日本の産業は分業化を進めて効率性を高めることが、どの業界でも行われてきた。デザイン業界だって同じような状況で、その中でついたイメージが”デザイナー=グラフィックのデザインをする人”というデザイナーの1側面だけを捉えたイメージに繋がっている。

マーケットの規模も、人材も、都会に比べて限られている地方で、デザイン事務所を経営することは、本来のデザイナーの役割を取り戻すことでもあると感じた。それは、ヘルベチカデザインのチームのつくり方からわかる。

グラフィック製作を担当するアートディレクターの令子さんも、企画のコンセプトなどを決めるクリエイティブディレクターの佐藤さんと一緒に企画段階から打ち合わせに入っていく。

一般的な会社の組織体系では、佐藤さんがきめたコンセプトやイメージに従って、令子さんがグラフィックを製作することになるはずだ。ヘルベチカデザインならではの、役割がロックされない緩やかな組織体系だからこそ、令子さんのグラフィックの隅々まで血が通っていく。

プロセスの質を高めるために、ヘルベチカデザインが緻密に行うのが、現場に足を運んで、現場の人とできるだけ長く接することなんだって。クライアントが困っていることの本質を見極めて、原因を追求して、最良の解決策に導いていく。そして、その土地の空気感や人柄までをデザインに吹き込んでいく。プロセスがグラフィックに落とし込まれていく瞬間だ。

何を伝えるのか、ということを徹底して追求して、洗練させていく作業こそがヘルベチカデザインの仕事の本質であり、本来のデザイナーの役割でもある。それを福島で実践できているデザイナーは、ぼくの知る限りヘルベチカデザインしかいない。

__デザイナーが人と人をつなぐ
クリエイティブディレクターとしての佐藤さんの仕事の1つには、どんなキャラクターが必要か見極めて仲間を集めていく、ということがある。それはまるで、舞台の演出家がキャストを揃えるように、1つの世界を作り上げるために、1人1人声をかけて揃えていく。

佐藤さんが、大手アパレルブランドのプレスから、デザイン事務所、アパレルのショップ経営を経て、フリーランスからデザイン事務所設立という道のりの中でできた人とのつながりを、大切にしてきたからできることだ。

映像、衣装、音楽。プロジェクトを演出するために必要な要素が、1つ1つ組み込まれていって、それぞれが不協和音を奏でることなく、すーっと1つに繋がっていく感じ。だから、彼らの生み出すデザインは違和感がなく、心地良い。

福島のとある港町では、地元で愛されている地魚を使って、ご飯に合う漁師飯をつくるプロジェクトが進行中。プロジェクトは、地元の漁師さんたちに、佐藤さんが郡山の料理人を紹介して商品を開発していくことになった。その中で、プロジェクトの主役となる数人の漁師さんたちと、朝までお酒を飲み交わすこともあったんだって。

最終的なアウトプットが美しいから、すごくクールな仕事の仕方をイメージしていたけど、ちょっと泥臭くて、人間味がある。こんな風に人のつながりをつくっていくところも、地方のデザイン事務所っぽくて嬉しい。

ヘルベチカデザインは、福島に新しい仕事をつくっている。それは、伝えるべき”本質”が伝わっていないモノ・コトを世の中に伝えていく仕事だ。クライアントとの対話や現場を見ることから、いらないものを削ぎ落としたり、整理したり。ちょっと泥臭いやりとりの中から見えてくる、本当に伝えるべきことを、デザインの力で発信してくれている。

ふくしま空間創造舎 上神田健太

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