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ふくしまの、まちをつくる人たち #8


渋谷フルーツガーデン 渋谷憲道 -Shibuya Norimichi-

1.市場への出荷から、個人販売へのシフトする。

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 渋谷憲道さんの営む渋谷フルーツガーデン。渋谷さんご夫婦とご両親の4人で営むこの農園では、桃を主力としながら、りんごやあんぽ柿も育てている。渋谷フルーツガーデンの桃は、7月から9月まで様々な品種を栽培しており、どれもが品種ごとの個性的な味わいを楽しむことができる。
収穫された桃のほとんどは、JAや市場などの大ロットの流通に乗せず、贈答用として個人に向けて販売しており、全国様々な土地のお客さんに夏の味覚を届けている。

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 今年で就農して20年が経った渋谷さん。専門学校卒業後、一時は会社員として働いていた渋谷さんにとって、子供の頃から見ていた家業の農家は「大変そうで嫌だな」と感じていた。そのため、渋谷さんが脱サラして桃農家に転身した数年は、桃づくりに真剣に向き合えない時期もあったそう。そんな渋谷さんを変えたのは、偶然出会ったお客さんから投げられた「福島の桃はいまいちだね。」という言葉。この言葉が、渋谷さんが桃づくりに真剣に取り組むきっかけになったという。

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 この時期と同じくして、それまで市場がメインだった渋谷フルーツガーデンの出荷先は、”市場”と”個人販売”の出荷量が半分づつになった。個人販売で購入する人というのは、自分で食べるために買う人もいるが、そのほとんどが他者へ感謝の気持ちを表すために送る”贈答用”の桃だ。そのため、どんな出来の桃もある程度受け入れてくれる市場と違って、個人販売は1度でも出来の悪い桃を送ってしまうと翌年の購入には繋がらない。毎年購入してくれるお客さんから、「今年の桃は甘くなかった。」などの声が届くこともあるのだそう。それでも渋谷さんは、その声に真摯に向き合い、より美味しい桃づくりに向けて創意工夫を続けた。その結果、個人販売の出荷量がどんどん増え、今では市場への出荷を止め、個人販売単独にシフトしたのだ。

2.自然に近い、土づくり。

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 渋谷さんの桃づくりは、極力自然栽培に近づける方法で行っている。歩くとフワフワとするほど柔らかい土でできた畑は、土の中の微生物が活性化していることを表現していて、土が元気な証拠。そのために、微生物を殺してしまわないよう、土から数センチ草を伸ばした状態を保つよう努力している。渋谷さんは笑いながら、「除草剤は使わず、根性で草刈りしてるんだよ」と教えてくれた。
渋谷さんは、自分の土づくりを「土に悪いことはしないで、良いことをするだけだよ。」とシンプルにまとめる。肥料や農薬で目先の収量を考えるのではなく、畑の長い未来を見据えて、本質的な土づくりを実践する渋谷さん。その背景には、美味しい桃作りへの探究だけでなく、「家業として何十年もかけて先祖たちが作ってきた土を、自分の代で壊すことは出来ない」という強い信念が根付いている。

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 桃の木も人間と同じで、調子が悪い時や病気の時は薬が必要になるが、土や木を自然の力で元気に保っていれば、肥料や農薬の量は最小限に抑えられるという。自分の子どもが自然に健康で元気に育つことを望むように、渋谷さんはその想いを桃にも向けて、できる限り自然に近い栽培方法で、全国に美味しい桃を届けている。

ライター:田上沙慧美(たのうえさえみ)

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