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ふくしまの、まちをつくる人たち #7

books&cafe コトウ 小島雄次 -Kojima Yuji-

 books&cafe コトウを営む小島さん。昨年4月に福島市内では数少ない”古本屋”をオープンさせた。築4〜50年は経っているであろう木造の建物の2階に上がると、コーヒーの香りとレコードの音が流れてきて、僕たちを迎え入れてくれた。この日は、半袖で過ごすには丁度いい気温で、大きく開いた窓からは、心地よい風が通り抜けていた。この場所は、大通りから少し入った路地裏にあって、自転車に乗った学生や、散歩途中のおじいちゃんが、窓越しにちらっとこちらを見て、お店の前を静かに通り過ぎていった。

 小島さんは、本好きなお客様に出会えることにわくわくしながら、今日もお店を開けて待っている。

_”古本屋”という文化が息づくまちにできたら。

小島さん「福島市は、人口が30万人もいて、県庁所在地でもあるのに、僕が始めるまで古本屋がなかったんです。映画館と個人の古本屋がない町に文化の乏しさを感じていて、映画館はあるので、古本屋のほうは自分でやろうと思いました。すごく本が好きで始めたというよりは、本のある空間と、そこに人が集まるような場を作りたくて始めました。」

 小島さんは、古本屋をはじめる前は公務員をしており、13年勤めたのち退職し、ブックカフェを始めた。公務員時代に、福島のまちを歩いて、たくさんのお店に立ち寄った。そこでかっこよく商売を営む先輩・大先輩たちと出会っていく中で、自分もこの土地で何か始めたいという想いが強くなっていったそうだ。

小島さん「自分が、このまちで暮らす先輩たちからたくさんのことを学んだので、いずれは自分もそんな人になれたらいいなって思います。このまちで働く先輩たちは、すごくかっこよくて。働き方って色々あっていいと思うんですけど、今は、仕事に追い詰められるようなストレスは感じないし、何のために生きているかシンプルで明確ですね。」

 仕事に対して大きなストレスを感じているのは、東京でも福島でも大きくは変わらないようだ。資本主義社会の中で、なぜ働くのかという問いに、目をつむっている人がたくさんいるのだと思う。小島さんの口調は柔らかいけれど、自分が納得のいく道を選びながら、信念を持って前に進んでいく力強さを感じた。

 この場所が、日々忙しく働く人たちの息抜きの場になって、サードプレイスのように機能してほしいと言う小島さん。インターネットが台頭し、これまでの本屋という形態で経営することが難しいと言われる今、あえてこういう場をつくることで、新たな価値を生み出そうとしている。人と人とが、本を通じて出会い、そこから生まれる”何か”を小島さんは大切にしている。

 店名の”コトウ”は、自分の名前である”小島”の音読みと、普段の生活から少し離れた”孤島”のような存在になりたいという2つの意味を持っている。”孤島”は、正にサードプレイスを表現した言葉だ。


_本好きなお客さんと共につくる空間。

 店内は、本を展示しているスペースと、カフェスペースにゆるやかに分けられている。本のスペースには、小島さんの感覚でセレクトされた本たちが肩を寄せ合って並んでいる。小島さんが絵本好きということで、絵本が多く並んでいるが、料理関連の本がまとめて並べられているコーナーもあった。料理関連と言っても、単なるレシピ本ではない。古いものを大切にしていて、自然素材にこだわって暮らす人たちが、素材・調理道具・器・家具までを含め、"料理を通じて暮らしそのものを伝える本"という感じだった。

小島さん「今並んでいる料理の本たちは、1人のお客様からまとめて買わせていただいた本なんです。小さな古本屋なので、本好きな個人のお客様からまとめて買うことで、その人のカラーがお店の中に作れるんです。自分のお店なので、自分のカラーを出すことももちろんありますが、お客様と一緒に作っていく感覚を大切にしています。」

 僕自身、これまで何度かコトウで本を買っているのだけど、行く度に毎回並んでいる本のジャンルが違い、いつも新鮮な気持ちになった。幅広いジャンルを扱っていて、どうやって本を選んでくるのだろうと不思議に思っていたけど、自分の感覚で選ぶことに加えて、こうやってお客さんの感覚も交えているんだ。

 コトウの店内にある、なんとも緩やかで心地いい空気感は、小島さんの人柄に加えて、こういうところから来ているのかもしれない。

_たくさんの想いが詰まったこの場所で。

 小島さん「1階の服屋のオーナーさんとは、お店を始める前から知り合いでした。物件を探している時に、たまたま2階のこの場所を紹介して頂いたんです。昔からこの場所が好きだったので、今でも時々、この場所でお店をやっていることを不思議に感じることがあります。」

 小島さんがお店を構えるこの場所は、福島市内で数十年アパレルショップを営んでいるオーナーが、とても大切にしてきた場所だ。というのも、コトウが入る前までは、様々なイベントを開催するスペースとして使われてきた。これからカフェを始めたい人が1日だけお店をやったり、アーティストの卵が自身の作品を展示するギャラリーとして使ったり。様々なチャレンジが生まれる場所として機能してきた。この場所でのチャレンジを経て、実際に自分のお店を始めた人だっている。 

小島さん「たくさんの人たちの想いが詰まったこの場所で、お店をできることが本当に嬉しくて。ここがなかったら、未だにお店を持てていたかどうかわかりません。そのくらい、この場所と周りの人が、僕の仕事環境を整えてくれたんです。」

 福島で出会った人たちが、歩きやすい道を作ってくれたり、背中を押してくれたりして、小島さんの挑戦を後押ししてくれたのだそうだ。

 僕自身も福島のまちを歩いていて、1つのお店に行くと、また別のお店を紹介してくれる、という経験をたくさんしている。こうやって、点と点がどんどん繋がって、1つのまちができているのだなと実感する。

 その後、「今はまだ夢みたいな話ですが。」と前置きをして、小島さんはこの場所の将来像を語ってくれた。

小島さん「もし、後輩で自分のような仕事を始めたいという人がいたら、この場所が学びの場となって、その人が成長できる場所にしたいなと考えています。」

 これは、小島さんがこのまちに通い、人と出会い、その人たちから多くのことを学んできた経験を通じて生まれた願いからだった。きっと、インターネットでも、学校の勉強でも、公務員試験でも得られない大切なことを、このまちの人から学んできたんだ。ここから、また次の世代にバトンが渡される日が来ることを想うと、すごく楽しみだ。


 books&cafeコトウで”古本屋”という新たな価値を生み出すことに挑戦した小島さん。この場所に訪れると、本との出会いはもちろん、このまちに暮らす人たちとの、良い出会いがきっと待っている。ここは、そんな雰囲気を感じられる場所だ。

books&cafeコトウ 福島県福島市宮下町18-30 2階 

ふくしま空間創造舎 上神田健太



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