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電車に乗ること


引っ越してから電車に乗るのが好きになった。

いや、もしくは引っ越し前に
長時間の電車に乗り慣れてしまって
今が物足りなく感じているのかもしれない。

高校までは、徒歩圏内の学校に
通学していたため、ほとんど電車は使わず
ときどき使うにしても慣れていないため
苦手意識がずっしりとあった。

大学に入学すると、急に片道約2時間。
最初は死ぬかと思った。
都内の電車は常に混雑していて、
ひどいときは足が浮くかと思うくらい
ぎゅうぎゅうに詰め込まれていて
掴み取りされるセール品の気分だった。

特に東海道線はいつも地獄のよう。
3年生になってから、小田急線に変えた。

小田急線はそこまでひどくなかった。
毎日60分座りっぱなしだった。
次第に60分にも慣れてきて、
短く感じるようになってきた。

コロナ禍で、電車に乗る機会が減った。
ほとんど乗らなくなった。
そのときは少し喜んだ。
合計4時間の通学時間を他のことに使えるし。

しばらくして、鎌倉でアルバイトをはじめた。
生まれた時から馴染みのある江ノ電。
通勤に使うようになると、
毎日窓からみえる海は表情を変えた。

大体30分の通勤時間は、海の一瞬以外は
こくこくと眠って過ごした。
次第に大学の対面授業もはじまっていき、
週に一回、片道2時間の通学が始まった。


就職先は、ほどよい田舎だった。
遠いところに、引っ越した。
そこにはずっと憧れていた景色があった。
電車の窓から見えるのは、田畑と山、家。
ビルは数えるほど。しかも低かった。

晴れてる日は出かけたくなった。
緑が多いから、太陽が嬉しそうに見えた。
車を持っていないので
出かけるとなると徒歩圏内の
スーパーか公園しかなかった。

だから電車に乗りたくなった。
勤務先は電車で20分。すぐだ。
なんだか20分は足りなかった。
まだまだ乗っていたい、これからってときに
もう勤務先の駅に着いてしまう。

場所が変わると、こんなにも
電車60分の過ごし方が違う。
感じ方が違う。

関西は空が広いなと感じたものだが
電車の窓からみた世界も広々と、
堂々と、あっけらかんと
全身で呼吸をしているようだった。

いつからこんなに移動の時間が
好きになったんだろう。
新しい土地は、私をなつかしい匂いで
緑の中に飲み込んでくれるような気がした。


いやぁ、イイところに、引っ越したナァ!

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