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『ぼっち・ざ・ろっく!』はスーパーヒーローの物語へ変わっていく

『SAVE THE CATの法則』によると、数多くの映画はすべて10種類のジャンルのどれかに整理できるという。この考え方を『ぼっち・ざ・ろっく!』に当てはめると現状のジャンルは「金の羊毛」になるが、今後のストーリー展開では「スーパーヒーロー」に変わっていくと予想される。その展開とは何か、その先にはどんな結末が待ち受けているのか?

注:原作マンガは読んでないので、あくまでもアニメのシーズン1を見ての感想です。


『SAVE THE CATの法則』の復習

『ぼっち・ざ・ろっく!』のジャンルが「金の羊毛」であること、そしてストーリーの中で主人公の後藤ひとりは「人との開かれたコミュニケーション」を重要な価値要素に位置付けていることを下記2つのエントリーで取り上げた。

これを踏まえて論考を続けよう。
陰キャでコミュ障を自認する後藤ひとりはバンドメンバーたちとの交流で着実に成長してきた。もちろん、アニメシーズン1の最終回で虹夏が言うように「まだまだ」の面は残っているが、今後のストーリー展開を考えると「誤解/疎外-孤立ー正気を失う」といったコミュニケーションネタだけではマンネリ化が避けられない。

「まだまだだな」(アニメシーズン1 第12話より)

原作マンガがさらなる高みを目指すのなら、新たなプロットでの新展開が必要だ。そこで登場するのが新ジャンル「スーパーヒーロー」だと私は考える。

スーパーヒーローの物語とは

『SAVE THE CATの法則』によると「スーパーヒーロー」ジャンルの作品はマーヴェルやDCの諸作品や『グラディエーター』や『ビューティフル・マインド』などが属するとされる。定義は次のとおりだ。

《スーパーヒーロー》というジャンルは、《難題に直面した平凡な奴》の対極にあり、正反対の定義が当てはまる。超人的な力を持つ主人公が、ありきたりで平凡な状況に置かれるのだ。(中略)
主人公は超人的な力を持つが、人間らしさも持っている。だから読者は共感できる。(中略)
スーパーヒーローの物語は、人と〈違う〉とはどんなことか、独創的な考え方や素晴らしい能力を妬む凡人と向き合わなければならないとはどういうことかを、観客が共感できるように描く。

ブレイク・スナイダー『SAVETHECATの法則』フィルムアート社より

ポイントはスーパーヒーローも葛藤や苦悩を抱えていることにある。そうした葛藤や苦悩があるからこそ、凡人である視聴者も共感を覚えるのだ。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の世界観で超人的な力を持つスーパーヒーローは大げさだが、ギターヒーローである後藤ひとりの本来の実力はバンドメンバー内で傑出しており、あくまでも素人バンドマンに過ぎない残りメンバーとの差が今後のストーリー展開の主要素になると予想される。

この新展開で主人公の後藤ひとりが直面する葛藤は、

・ギターヒーローの真の実力を人前で安定して発揮できないこと
・実力を発揮した場合、他メンバーとの実力差が目立つこと

が基本要素となって物語が進んでいくと思われる。

重要な価値要素は「成功」と「忠誠」

『ぼっち・ざ・ろっく!』の新展開で重要な価値観となるのは第一にバンドとしての「成功」だろう。これは参考文献(『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』フィルムアート社)では次のように表現されている。

『ストーリー』をもとに独自に作図

バンドの成功(例えば、メジャーデビュー)という目標に対して、それが全く実現できない状態が「失敗」だ。この関係性の他に、デビューを目指すでもなく、ローカルなライブでそこそこの盛り上がりで満足する状態が「妥協」となる。
この価値観の変移の中で、主人公が経験しうる極限までストーリーを展開しつくすためのポジションが「魂を売る」だ。例としては、

  • お色気路線に走る(アニメでも冗談として出てきた)

  • バンドの持ち味を捨てて、受け狙いに転向する

  • 何らかのあくどいコネを使う、賄賂を使う

などなど、魂を売る行為は多種多少だ。が、見ての通り、『ぼっち・ざ・ろっく!』の世界観とはマッチしない。これをやったら人気低落で連載は終わってしまう。

もう1つ考えられる価値観が「忠誠」で、具体的には主人公・後藤ひとりとバンドメンバーとの絆がテーマだ。

参考文献『ストーリー』をもとに独自に作図
  • 自分だけが傑出した力を持ちながらも、バンドメンバーとの友情を大切にして活動を続けていくのが「忠誠」

  • 実力不足のメンバーに見切りを付け、バンドを脱退して自分だけの成功を求めるのが文字通りの「裏切り」
    (これは「成功」テーマの「魂を売る」にもあたる)

  • メンバーの実力に失望しつつも、脱退はせずに惰性でバンドを続けるのが「半端な忠誠」になる

「自己背信」は難しいが、メンバーとの実力差に悩みつつも脱退は決意できずに苦しんだ後、自分のプレースタイルを自ら壊してしまうことが考えられそうだ。

いずれにしても、こちらも『ぼっち・ざ・ろっく!』のストーリー展開としては重すぎる感じだが、他メンバーの視点でぼっちちゃんの成功を願って自分たちから身を引く流れはあるかもしれない。

この場合、その名の通りにふたたび一人に戻ってしまった主人公・後藤ひとりは苦悩の上に苦悩した挙句、最終的な結論にたどり着く。クライマックスのセリフは既に決まっている。

〇屋外 とある公園 - 夜

ひとり「わ、わたしは、知らない誰かのギターヒーローより、結束バンドの後藤ひとりでいたい!」

そして、バンドメンバーたちとの絆が再構築され、物語は終幕に向かう。

『ぼっち・ざ・ろっく!』 第3部完

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