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商業漫画の体感的難しさ比較

完全に個人的見解なんですが、雑誌系商業漫画とアプリ系商業漫画の体感的難しさってちょっと違うなあという感じがしたのでまとめてみました。

雑誌系の商業漫画の難関は
①なんらかの漫画賞で受賞すること
②連載枠を獲得すること

の2点だと思います。

漫画賞への応募前に持ち込みや月例賞で担当さんがついてくれる場合がありますが、なにはともあれ目指すは漫画賞です。
受賞すればそこからは必ず担当さんがつきます。
ここで誌面に載ることができればいわゆる「デビュー」の状態となります。
幾度となく落選し怒涛のダメ出しを経て漫画賞で受賞するわけですから、描き手としては「ついにやり遂げた!」という最高の気分でしょう。

ところがここからがスタート。
連載枠は雑誌によって決まっており、すでにベテラン作家陣が固めています。
ここに入り込まねば連載枠は取れません。
そこで、まずは連載するに足るスキルを身に付けるために読切を何本か描くことになります。
漫画賞を目指していた時とは比較にならないくらいの企画案を出し、ネームを切ってはダメ出しされの繰り返し。
作画のしかた忘れるくらい長い間ネームが通りません。
もちろん人によっては連載枠がすぐにゲットできることもあります。
企画が良い、作家のスキルがもともと高い、といった作家由来の要因と、連載作品で同系統のものがない、他作品が連載終了のタイミングである、など外部的要因もあるでしょう。

漫画賞を受賞するまでに諦めるひと、漫画賞を受賞しても読み切りも載らないひと、読み切りは載るけど連載にはならないひと…非常に多くの新人漫画家がふるい落とされています。
だからこそ雑誌の連載枠が取れるって、本当に本当にすごいことなんです。

さて、アプリ系の漫画はどうでしょうか。

入口は雑誌系と同じく何らかの漫画賞への応募ですが、PixivやTwitter、漫画投稿サイトなどからスカウトを受けることも多数あります。
したがって、何の賞も受賞していないけれどアプリ系商業漫画家になったひともいるにはいます。

アプリ系の場合、読み切り作品はほとんどありません。
利益が薄いからです。
よって最初から連載の企画を練ります。
アプリ系漫画の場合は連載枠数を制限しておらず、作品数が多ければ多いほどアプリ書店に人が呼び込める仕組みになっています。
だから多くの連載作品が必要なのです。
「雑誌系よりめちゃくちゃ楽じゃん!」と思われるかもしれません。
たしかに雑誌系に比べて連載までのスピードはかなり速いです。
だからといって何でもいいわけではなく、当たり前ですが商業漫画として売れるものを企画しなければ連載には至りません。

アプリ漫画の場合、作品数が半端なく多いので、読者自身が作品を探し出すのは困難です。
そこで使われるのが「どんな漫画かわかるタイトル」です。
「異世界転生した俺が魔王を倒す話」とか「悪役令嬢に転生したのに求婚される話」とか。
そしてタイトルに頻繁に出てくるワード(異世界転生、悪役令嬢、復讐、結婚、求婚など)はいわゆる「検索タグ」です。

そうすると、企画自体の方向性もある程度限られることになります。
検索される確率を高めなければそもそも見つけてもらえない=売れないからです。
特殊な設定の物語はこの時点で企画が通りにくいです。
最初のわかりやすさが肝心なのです。
ただし似たようなタイトル似たような内容の作品ばかりになるとこれまた埋もれるというデメリットもあるので、描き手としては「タグはタグとして活用し、中身にどう特殊性を持たせるか」が腕の見せ所となります。

順調にアプリ漫画で連載を勝ち取り、継続できていたとしましょう。
しかし雑誌系と異なるのはここからです。
まず紙本としての単行本が作られる可能性はものすごく低いです。
相当PV数/課金率の高いもの以外は基本紙本になることはありません。
紙本は紙や印刷代などの資材に先行投資するため、在庫を抱えることが何よりもリスクです。
アプリ内だけでなら黒字の作品も、単行本を出すと赤字になるものがほとんどです。
利益を確保し続けるには、紙本は極力出さないのが得策なんですね。

そこを突破して紙の単行本がでたとしましょう。
書店に並んだとき、どんなふうにディスプレイされるでしょうか。
新刊扱いの間は平積みされるでしょうが、せいぜい1週間です。
そのあとはどこへ行くのか…。
アプリ系漫画を出版する出版社は漫画雑誌を刊行しているわけではないので、知名度は低いです。
その他出版社の棚にだいたい押し込められます。
一方あれだけ漫画賞だの連載枠だの苦労した雑誌系漫画はどうでしょうか。
書店では「出版社名の表示された棚」に並ぶことになります。
作家名や作品タイトルがそんなに知られていなくても、出版社名という大きな宣伝材料が後押ししてくれるのです。
単行本の売上には「知ってる出版社名」という読者心理が大きく関わるのです。


以上、商業漫画に携わってみて体感的に感じたことをまとめてみました。
何かの参考になれば幸いです。
Webtoonとかはまた全然違いそうなので、そちらの市場も勉強していきたい~!(*^-^*)


わたしの好きを詰め込んだマンガですが、届いてくれることを願って。応援いただけると本当に嬉しいです。