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【無料朗読台本】青と涙と出会い

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あれは、夏。
澄んだ青い瞳と、一粒の涙。
今でも鮮明に思い出せる。

焼けるような日差しの中、広大な庭の手入れをしていた。
毎週月曜日、決まってこの城に来る。
庭師の師匠の手伝いをするために。
師匠と言っても、一時的なものなのだが。
教会からの紹介で、ケガをした弟子の具合がよくなるまでということで仕事を分けてもらえることになった。
それでも、この国の王が住む城の敷地内に入ることができるというだけで、重要な役目を果たしているような気分になれた。

その日も、月曜日。
いつものように師匠の手伝いをするために、城の使用人通路を通って庭に向かう。
仕事場についたところで、何か違和感を覚えた。
庭の様子が変わっているわけではない。
建物が変わるわけでもない。
雰囲気だ。
城全体の雰囲気が、夏の力強い日差しとは裏腹に、冷たいしんとした空気に包まれているのだ。

その原因を見つけようと立ち尽くしていると、後から来た師匠が教えてくれた。
王妃の一人が死んだ、と。

王妃の一人、というのも、この国には現在王妃が三人いる。
国民には許されていないが、王国の血を絶やさないために、王族は基本的に一夫多妻制をとる。
現在の国王も例外ではなく、国王になった年に三人の王妃を向かい入れた。
その中の一人が、亡くなったというのか。

悲しいことだと思う。
人が死ぬというのは、とても悲しいこと。
でもどこかで、他人事のような気がしていた。
自分が関わることのない、遠い世界のことだと。
……考えても変わらないことだ。
心の中で王妃様を静かに偲び、仕事にとりかかった。

朝の話があったからだろうか、その日は無心で仕事をこなしていた。
作業がひと段落し、次のエリアに移ろうとしたとき。
ふと、気配を感じた。
突然だった。
小さな白色の気配が後ろを通り過ぎた。
無意識に、そちらに視線が向く。
8歳くらいの女の子だろうか。
真っ白なワンピースの後ろ姿。
強い日差しに照らされて反射し、輪郭がぼやけて見える。
まるで、天使のようだと思った。

女の子は視線に気づいたのか、一瞬ためらい、こちらを振り返った。
そして、はっとした。
そこには、青。
深く澄んだ青い瞳が、こちらを見ている。
目が合った瞬間、彼女の青い瞳から涙が一粒。
ゆっくりと頬を伝った。

それが、彼女との出会い。
忘れもしない夏。
澄んだ青い瞳と、一粒の涙。

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