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【無料朗読台本】少女と魔物となった彼

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少女はいつものように窓から外を眺める。
しんとした廃墟のような城、広すぎる部屋に少女は一人。
寂しさを紛らわすように、いつも部屋の隅に座っている。
そうしてもう何年も過ごしている。

そこから見下ろす景色は、いつも変わらない。
変わるのは、空の調子だけ。
今日は灰色の雲が覆いつくしている。

ぽつり。
窓に水滴が当たる。
ぽつり、ぽつりと屋根を打つ雨の音が聞こえ出す。
少女は空を見上げる。
少女の心のようにどんよりとした雲が瞳に映る。

なぜ、こうなってしまったのか。
ただ一心に、彼を助けたかった。
家族を裏切っても、彼だけには死なれたくなかった。
だから、少女は自分の中にある大きな力を、彼に託した。

少女は、世界を作ったとされる力を継ぐ、王家に生まれた。
現代になってその言い伝えは過去の伝説となっていた。
力を継ぐとされるだけで、誰もその力を覚醒させることができなかったから。

でも、少女の強い思いが伝説を現実に変えた。
その力を与えられた彼は、もう人間ではいられなくなる。
彼は不老不死を得た魔物となった。
魔物となった彼は、少女の家族、王家のものを皆殺しにした。
それは少女の望むことでもあったから。

でも、それは彼を苦しめることとなる。
力の暴走が静まったころ、彼は人間の心を取り戻した。
そして、心優しい彼は自分のしてしまったことを思い、悔やんだ。
悔やんで悔やんで悔やんで、とうとう、城の外に出ることをやめた。

それから少女と彼は二人、廃墟同然となった城に二人で住んでいる。
人間ではなくなった二人。
不老不死の二人。
廃墟の中で、ただ窓から外を眺めるだけ。
毎日をただ過ごすだけ。

なぜ、こうなってしまったのか。
窓から見下ろす景色は、いつも変わらない。


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