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【無料朗読台本】月と人狼の少女

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少女は大きく息を吸い込んだ。
夜空に浮かぶ青い大きな月に、祈るように、頼るように、目をつむる。

少女の目の前には、赤黒い水たまり。
もう原型をとどめていないそれは、ただの血肉の塊。
少女は、人間の血肉を食らわないと生き永らえることができない、人狼。
ひと月に一度、このように人間を仕留めて接種しなければ、少女はたちまち灰になって消えてしまう。

少女はわかっている。
自分が消えてなくなれば、人間たちは死なずに済む。
でも、少女には理由があった。
この村を出た母親が帰ってくるまで、自分は生き続けなければならない。
そうしないと、母親が戻ったときに心配してしまう。
母は、半月前の狩りの日、家を出たきり戻って来なかった。
なぜ帰ってこないのか、少女にはわからない。
けれども、少女は待つという選択をしたのだ。

母を思うことのできる少女は、人間の死の悲しみも知っている。
生きている人間が死ぬことがどれほど辛くて悲しいことなのか。
けれども、少女は、人を殺さなければならない。
自分が生き続けるために。母親を待つために。

少女は大きく息を吸い込む。
夜空に浮かぶ青い大きな月に、祈るように、頼るように、目をつむった。


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