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Mr.Children「重力と呼吸」の話

待っていました。
いや、本当に。
「REFLECTION」という持てる球種は、すべて出し尽くしたと言われるアルバムから3年半。
その間ライブをたくさんやっていたけれど、自分は諸事情で行けず。
新しい音を待ち望んでいて、やっとのことで聴けるな、という安心感とワクワク感でいっぱいでした。
個人的にも、この初聴から聴き込んで行った感想や感覚を忘れたくないので、レビューとして残しておきます。

このアルバムはきっと万人受けさせるためのアルバムではないんだろうな、というのはジャケットやタイトル、雑誌のインタビューから予想はしていました。
余談ですが、このアルバムを初めて聴いたのは、首都高に乗ってディズニーランドに行く途中。メロディーラインを聴きながら、夜景を見ながら泣きそうになったのは内緒の話。
車の走行音もあったのだけれど、桜井さんの声が聞き取りにくかった。やはり、バンドサウンドががっつり表に出てきていて、歌を聴かせるためのアルバムではないんだな、というのが第一印象でした。
以下聞かれてもいないけど、全曲レビューです。

Your song

MVが1番だけ公開されていて、最初の鈴木さんの「ワン!ツー!」とイントロのシャウトから度肝を抜かれる。
一音に何個かの言葉を入れる歌詞の入れ方はミスチルの王道という印象。(歌詞の“エピソード”とか)
君じゃなきゃ君じゃなきゃ、と歌っているけれど、歌詞の最初に出てくるように、華やいだ時期を通り過ぎて落ち着いた倦怠期前の夫婦のような感じがメロディーにも現れている。大きな盛り上がりや高い音程がない。それでも、“君じゃなきゃ”と歌う桜井さんの声に、結婚4年目の自分と重なって、なんだか暖かい気持ちになる。
そして、それにプラスして何気ない日常“だけ”を歌っているところが、今作の“重力”感が出ている
日常から世界の出来事に向けて物事を大きく歌っていく(SUPER MARKET FANTASYの“口がすべって”が良い例)のではなく、日常から日常へ、あくまで手の届く範囲の歌詞。
現代において、生きるか死ぬかの落差があるジェットコースターのような歌は、ナンセンスだと雑誌で桜井さんがインタビューで言っていた。一曲目からそれが体現されている。

海にて、心は裸になりたがる

題名からは想像し難い、SNSでスマホの画面から、他人や世界を批判する人への歌のように感じられる。
でもサビで、「批判ばっかしてないで、客観視してないで、どんな奴も、海に出ようぜ、世界に出ようぜ、心は裸になりたがっている、世界は繋がっているし、会いたがっている!行動しようぜ!」というメッセージで、批判だけになっていないところが、桜井さんの優しさ。
そんなサビの所々に、「Oh!Oh!」と入れるところを見ると、ライブをかなり意識した曲。
最後の転調も、雑誌では恥ずかしいなんて言っていたけれど、デビュー当時のアルバムに入っていてもおかしくない原点回帰のメロディーと、風刺が効いた今時のミスチルの応援歌という感じのアンバランスさが、何より良い。

SINGLES

綾野剛のドラマタイアップ曲。
Youtubeで桜井さんそっくりの人が歌っていたのを聴いてしまっていたので、なんとなくその時のイメージが抜けなかった。
一番ポップ寄りな歌詞だな、とも感じた。
聞き込んでいくと、
僕が僕であるため、君が君であるため、は間違いなく尾崎豊を意識してのことだと思うけれど、入れてきたのはどういう意図だろう。
幸せは人それぞれって現代を象徴しているな、とも思う。高度経済成長を果たした昭和から、停滞の30年平成が終わる中で、幸せの形は人それぞれになってきていてで、しかもそれを資本主義に真っ向から挑むハゲタカの主題歌ってのも皮肉っぽい。
東京タワーという歌詞が出てきた時、首都高から東京タワーが見えた。というのはだいぶ余談。
間奏から特徴的で、そこからまくしたてるような歌詞に、ミスチルだなっと独特の安心感がある。

here comes my love

最初に聴いたのは、マツケンと深キョンのドラマだけれど、その後に配信されてすぐ聴いたら、Queenやん!って思ったのは僕だけじゃなかったみたいだし、どうやら桜井さんもめちゃめちゃ意識して作っていたみたいだ。
Twitterで出ていたように、my loveを子供と置き換えてこの曲を聞いてみたら、自分のもとに生まれてくれた子供が愛しく見えてくる不思議。
しるしからはじまったこの流れは、凄いなと毎度思う。恋愛の歌詞だけでなく、子供を想う親の気持ちにも解釈できる。どんな愛も普遍的なのかもしれない。のかも。なんてね。

箱庭

これも原点回帰な曲調。
ミスチルのことわざいじり(明日には明日の風が吹くっていうけど〜)は健在。(他にはロックンロールは生きているの“清水の舞台”とか、雨降って地固まる、とか)
割とグロテスクな歌詞に、ぎょっとさせられるけど、狭い箱庭に生きている郷愁が出ている。

addiction

入りのドラムや感じがまるでゲスの極み乙女っぽい。
現代のバンドっぽい感じで、タイトルの意味が“依存“”中毒“。
窓をwindowというのは、昔のアルバムっぽい。
少なからず、最近のバンドに影響を受けていて、でも超えられないって思わせるアルバムだというのは、この曲からもみて取れる。
ミスチルからの挑戦状なのかもしれない。
oh,ohといっていたと思ったらmore more moreで歌詞カードをみてびっくりした。
何に中毒で、依存しているのだろう?

day by day(愛犬クルの物語)

「ビジャーン」とはじまる歪みまくったギターの音が印象的。スピーカー壊れたかと思った。
愛犬クルって?と思って聞いたけど、ロックバリバリのバンドサウンドから、昔の歌謡曲か洋楽を思わせるサビへの入り。
day by day(日に日に)募る愛しさを見事に表していて、お気に入りのナンバー。

秋がくれた切符

深海の頃だったら、小林さんのピアノオンリーで歌い上げるだろうな、という一曲。
ドラム、ギター、ベースも邪魔しないのに、ちゃんと存在感があって、ミスチルだからできるのかなって思ったりもする。
秋にぴったりで、別れのような歌なのに、最後はちゃんとラブソングに収まっている。

himawari

キミスイでの主題歌にやはりぴったり。
なんでタイトルローマ字にしたのはなぜだろう。
メロディがBメロとサビが一緒なのに、物足りなさを感じないのは、なぜだろう。
死にいく恋人に対する歌なのに、君がいなくなった後、誰かに想いを寄せるぼくが本当にいるのだろうかと歌い、Cメロでは、恋人を失う主人公の葛藤やもがきをも責め立てて、ヒマワリのような“君”と対比させる。そんな歌詞がかけるのは、桜井さんもやはり恋の酸いも甘いも知っているからなのだろうか。

皮膚呼吸

名曲。エンドレスリピート。ヘビーローテーション。
ピアノ伴奏からはじまるいつもの感じ。でも途中からはじまるいつもと違うバンドサウンド。
皮膚呼吸というタイトルも、歌の内容も、これをポップソングに昇華できる桜井さんにいつも脱帽する。(擬態、常套句、未完、幻聴、進化論、蘇生などポップソングに昇華するの難しい漢字シリーズと密かに呼んでいる)
ある程度、完成されたバンド、であるはずのMr.Children、そしてそのボーカルの桜井さんの苦悩が前面に出ている歌詞、そして曲調に感動。
肺でコントロールできる呼吸は、やりたくもなかったことをしてしまったり、チャレンジせず、諦めたことをやってしまったため息を表しているのか。
でも、コントロールできない衝動(まるで今回のロックを前面に押し出した曲たちのような)は、皮膚呼吸のように無意識にすこしずつ微かな酸素を体に取り入れて、自分の体を作り上げて、姿を変えながら自分を進めていく原動力になっているのかもしれない。そんなふうに考えて、この曲を作っていることに、今の自分と対比に泣きそうになった。浦安近くの高速道路を運転しながら。
docomoのCMに使用されていたメロディは、アルバム用の短い曲のサビかと思っていたけれど、こんな名曲のBメロになったのか、と驚きを隠せない。
自分的にはリードナンバーはこの曲なんじゃないかと感じた。

長々と、しかも偉そうに全曲レビューしてきたけれど、すべての曲が良かった、とぼくは言えます。賛否両論巻き起こるアルバムではあるけれど、やっぱりチャレンジした時にこそ賛否両論が起こって、価値が上がっていくんだなと感じました。
重力と呼吸という、科学的で、抗えない二つのものをタイトルに持ってきたあたりポップ要素は少なめだろうし(ヒカリノアトリエなどを抜いたあたりからもわかるように)、自分たちのあり方やイメージに一石を投じるアルバムになっているなと思いました。
何にせよ皮膚呼吸がタイムリーすぎて、アルバムを象徴する曲で、泣けてきました。
別に、こめかみの奥の方から満足ですかなんて聴こえてくるような結果を全力疾走で残してきているわけではないけれども、安定、とかが聞こえてくる30代〜に突き刺さるアルバムでした。
そして、影響を受けたぼくはこうやってnoteを更新する。“また姿変えながら、そう、自分を試すとき”だから。

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