落とし所の話

尊敬する上司と飲みに行ったときの話だ。

尊敬する上司の尊敬する大先輩から、「お前は何を意識して仕事しとるんじゃ」と聞かれた時、「落とし所です」と言ったらしい。そしたらその大先輩に「いい仕事しとるな」と言われた…という話だ。

これを居酒屋で聞いたとき、正直ぼくにはあまりピンと来なかった。普段の仕事において、落とし所を意識して仕事することがなかったからだ。

でもぼくはそれよりだいぶ以前に、この落とし所を象徴する唄を聞いていて、唄ってもいた。

Mr.Childrenのアルバム"SUPER MARKET FANTASY"に収録されている"口がすべって"という唄だ。

カップルの喧嘩から、話は民族間の対立や戦争にまで話が及ぶ。そして桜井さんはそれを"難しいですね、で片付くほど簡単じゃない"と言う。そして、落とし所を表現するには余りある一文が、歌詞に素直に織り込まれる。

誰もがみんな大事なものを抱きしめてる 人それぞれの価値観 幸せ 生き方がある 「他人の気持ちになって考えろ」と言われてはきたけど 想像を超えて 心は理解しがたいもの

仕事をする上でみんな色々な価値観や仕事の仕方をしている。早く帰るために仕事をしている人もいれば、人生の中で仕事において何かを成し遂げたいと思っている人もいる。出世のため、金のため、生活のため、家族のため、様々な大事な目的で、様々な人が仕事をしている。楽に効率的に仕事をしたい人もいれば、安全にじっくり仕事をしたい人もいる。それは仕事によって、タイミングによって、接する人によって、同じ人でも変わっていく。

他人の気持ちになって考えても、わからないこともあるだろう。そりゃそうだ。想像を超えて人間は理解しがたい。

そんな人間と仕事をするにあたって、同じ価値観や仕事の方法を求めることは、不可能であり、理不尽だ。互いの主張を言い合っているだけならバカでもできるが、いつまでたっても仕事は進まないし、永遠に平行線を辿るだけだ。

正義の反対は悪ではなく、別の正義…なのだ。正しいか間違っているか、の議論ほど愚かなものはない。ある視点で間違っているように見えることは、別の視点では正しい。

大事なのは、仕事を、目的を、やりたいことを遂行する上で、あなたの正義もわたしの正義も貫くために、ここらへんで落としましょう、と決定する能力なのだと、ぼくは思う。(尊敬する上司に確かめたわけではないが)

さらにこの唄では、それを成し遂げるためのアドバイスも、ぼくらにくれている。

流れ星が消える 瞬く間に消える 今度同じチャンスがきたら 自分以外の誰かのために 願い事をしよう

きっと落とし所を探す行為は、自己犠牲の上で成り立つことが多いのだろう。だれかとだれかの正義を突き合わせる行為自体、相当なエネルギーを消費する。(それが別に紛争など殺し合いレベルじゃないにしろ)

自分以外の誰か(正義を突き合わせている机の向こう側の人間かもしれない)の気持ちをすこしでも理解する姿勢や気持ちが、今後のぼくらのブレイクスルーには、必要なのではないだろうか。

…という話を、今度、尊敬する上司に聞いてみたいと思っている。

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